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部屋の灯りを消して、小さな丸椅子に座る。
行儀は悪いが片足を椅子に上げ、抱え込んで水槽を眺める。
鮮やかなブルーに赤いラインが凛々しいカージナルテトラが、小さな群れで泳いでいた。
水槽を照らすライトもブルーで、まるで海の底のようだ。
熱帯魚は夜に眺めるのがいい。
可愛らしい鳴き声や仕草などいらない。
美しい姿で泳いでくれればいい。
深夜になっても、外はムッとする暑さだ。
ベランダの壁にもたれ、缶ビールを飲む。
ここから見える街の灯りが、幸せの象徴に思えて目を伏せてしまう。
この灯りを辿っていけば、誰かが待つ場所に行き当たるだろう。
その人も、こうやって夜を眺めているのだろうか?
何も知らずに優しい気持ちで、愛しい人の帰りを待っているのだろうか?
「蘭……どうした?こんな暑い所で」
先に眠ってしまった海里が、ベランダへ出てきた。
黙って目の前の夜景を見つめる。
見えない誰かのため息を聞きながら。
「飲む?」
私が差し出した缶ビールに手を伸ばしかけ、思い出したように首を振る。
「そうよね……」
涼しい部屋に戻ると、そっと海里の背中を押した。
「今日は帰れば?」
「だな……」
相変わらず冷たくて、掴みどころもなくて気まぐれで。
本当に欲しい言葉は言ってくれない。
それでも逢えば、そんな事はどうでも良くなってしまう。
私は貴方に痺れただけ。
痺れて、蕩けて、溺れただけ。
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