痺れる熱帯魚

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 初めて熱帯魚を飼ったのは、妹の(あおい)が結婚した頃だ。  小さい頃からどこか頼りなげで、ふわふわと飛んでいくタンポポの綿毛のような子。  たくさんの人から手を差しのべられ、愛され、そして結婚した。  あっさりと私の手を離し、彼の手を取り幸せになった。  私に結婚願望はない。  恋愛さえも面倒くさいし、楽しくない。  なのに、葵が結婚してからまわりの関心が私に集まり、両親から結婚へのプレッシャーも感じ始めた。 「そのうちに」  お決まりの言葉も、長く使えば効果はなくなる。  そんなモヤモヤする毎日を癒やしてくれたのが熱帯魚達だ。  犬でもなく猫でもない。  部屋の一番良い場所に水槽を置き、環境を整えてやる。  やって来た両親は、熱帯魚が泳ぐ水槽と私を交互に見ながら眉をひそめた。   「ペットを飼うって……蘭は結婚する気がないのね……」 「それって、犬とか猫の話でしょ。それより、葵は?心配なのは葵でしょう」  フッと父の口元が緩んだ。 「しっかりやっているさ、葵なりにな。最近、ここには来てないのか?」  先週一人で遊びに来た葵は、熱帯魚が泳ぐ水槽を眺めて笑っていた。 「熱帯魚って!お姉ちゃんらしいというか〜」 「うるさいよ?私が好きなんだからいいでしょ」 「でもね……この熱帯魚、お姉ちゃんに似てる。だからこの子達を選んだのでしょ?青と赤、格好いいもんね!」 振り向いた葵の笑顔が、やけに眩しく見えた。  
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