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「熱帯魚、増えてる」
貴方はフラリとやって来て、ビールを飲みながら水槽を眺めている。
「ミクロラスボラ・ハナビ。花火みたいな模様が綺麗でしょ?」
海里に見つめられているミクロラスボラ・ハナビ達は、黄金の斑点が散りばめられたドレスを纏い、水草の間を泳いでいる。
時折、水中に花火を描きながら。
「何で結婚するんだよ。蘭らしくない……」
部屋に飾られたウェディングドレスが、嫌でも目に入るから、海里は拗ねてそっぽを向く。
貴方が来るからわざわざ部屋に飾ったのに。
「あなたを忘れたいから……これで満足?」
灯りが消えた部屋は、海の底に似ている。
くっきりと見えるのは美しい熱帯魚達だけで、私と海里は揺れる水草。
絡み合って、離れて、また絡み合う。
痺れて、揺れて、また痺れる。
3日後私は、結婚する。
あの純白のウェディングドレスを着て。
私の罪も、海里への思いも、全部このウェディングドレスで隠して。
「シャワーを浴びたら、帰れば?」
「……だな」
もうこれっきり。
今日が最後。
さよなら、海里。
そう言えたら、どんなにか楽だろう。
帰って行く海里を見送らないのはいつもと同じ。
誰かを抱きしめる海里など、私の海里じゃないから。
いつだって、明日などいらないと思っているから。
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