痺れる熱帯魚

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「蘭、週末の夜にクラークキーにでも行かないか?」  シンガポールリバーに沿ったクラークキーは、新婚旅行でも訪れた。  お洒落なバーでカクテルを飲んで、川沿いを散歩した。  まだ気持ちがグチャグチャだった私は、零れた涙をお酒のせいにして、誠二さんと早々にホテルに戻ってしまったけど。  あれから2ヶ月、諦めにも似た乾いた心で、淡々と過ごす毎日だ。  休日になり、私と誠二さんはお洒落をしてクラークキーに向かった。  異国の地だからか、私も誠二さんもドレスコードでも堂々と振る舞えるから不思議だ。  日本とは違う圧巻の強く明るい光量は、ここに住む人達の欲望の強さだろうか、それとも魂の強さだろうか。  昼間のような夜景に目を細める。 ──私には、川面に映る光りでちょうど良い。  たった一人で過ごす日中、寂しくない訳がない。  ショッピングや散歩も、もう時間つぶしにもならなかった。  これが私の罰なのだ。  孤独という名の罰を、葵から貰った。  「リバークルーズ、乗るかい?」  誠二さんが指さしたクルーズ船は、屋形船のようなバムボートで、なんとなく頷いてしまった。  もう、日本が恋しいのだろうか?  それとも……。  昼間のシンガポールリバーは、重い緑色の水が緩やかに流れているが、夜は違う。  川は黒いスクリーンになり、華やかな彩りを揺らしながら観る者を感嘆させる。
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