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4-1 昔の友達に会いたい(皆川健人の場合)
「また、飲みに誘ってください。今日、皆川さんと飲めて、俺、凄い楽しかったです」
「分かった、分かった。というか、飲み過ぎて俺に絡むなよ」
「酷いな。絡みませんよ」
皆川健人は、その日、職場の後輩の高槁と飲んでいた。
お互い最寄り駅が同じなこともあり仲がいい二人は、飲み屋で日付が変わるまで飲んでいたのだった。そろそろお会計かと言うころ、高槁が話し出した。
「そういえば、皆川さん、知ってます?夕が丘駅の都市伝説!」
「都市伝説?」
健人が不思議そうな顔をすると、高橋は、得意気に話を続けた。
「ある事をすると、会いたい人に会えるらしい不思議な電車の話です」
高槁はその都市伝説を詳しく説明してくれた。
「まず、15日に駅のコインロッカーに会いたい人の名前を書いた紙を入れます。そして、次の日その紙が無くなっていた人は当たりです。当たりの人だけ、その月の最終金曜日の終電の後にやってくる電車に乗って会いたい人と電車の旅が出来るらしいです」
「電車の旅ね…」
健人は、あまり興味なさそうに呟いたが、高橋はそれにかまわず続けた。
「皆川さんだったら、誰と会いたいですか?」
「俺か?そうだな」
「あ!芸能人とかは駄目ですよ。電車の運賃代わりにその人と共通の思い出があるものを渡さないといけないみたいなんで」
「じゃあ、知り合いとかだろ。会いたいぐらい仲がいい知り合いなら、そんな事しなくても連絡とって会えるしな」
「じゃあ、いないんですか?俺は、元カノとかに会いたいな」
「前の彼女は、お前が束縛するからフラれたんだろ」
「まあ、そうですけど…」
「高橋…」
「あ!そういえば、日付も変わって今日は、15日じゃないですか。せっかくだし、一緒にやってみましょうよ」
「こんな時間に、夕が丘駅にわざわざ行くの嫌だよ。というか、お前もやめとけよ。例え、成功したとして、別れてまでしつこくされたらその子だってかわいそうだろ」
「そんな、酷い…。分かりましたよ、やりませんよ。まあ、都市伝説なんですけどね。」
「そうだった。都市伝説だったな」
二人は、笑いながらお酒を飲んだ。
健人は、その日、家に帰るとほろ酔いのままベッドに倒れこむように寝た。
次に健人が目を覚すと、すっかり日が昇っていた。時計を見ると、午前10時をすでにまわっていた。
「お腹すいたな。駅前にご飯でも、食べに行くか」
健人は、駅前を歩いていると、ふとコインロッカーが目に入った。
(都市伝説か…)
健人は、後輩にはあんなふうに言っていたが一人だけ、忘れられない人がいた。それは、小学校の頃に、ケンカ別れした友達の茂森誠だ。
(もし、あいつにもう一度会えるなら)
健人は、夕が丘駅に向かった。
次の日、健人は鍵が閉まったコインロッカーの前で固まっていた。
(例え、紙がそのままだとしても、所詮都市伝説だと諦めもつく。でも、もし紙が無くなっていたとしたら、今さら俺があいつに会って謝ったところで何になるんだろう。あいつだって…)
その時、隣でコインロッカーの扉が閉まる音がして、横を見た。すると、一人のおじいさんがため息をついていた。
「どうしました?」
健人は、おじいさんに声をかけた。
「すみません。隣でため息なんてつかれたら嫌でしたね」
「いえ、大丈夫です」
「老い先短いと今までの人生でやり残した事が気になってくるんです。あなたは、私みたいに後悔することがないように生きないと駄目ですよ」
おじいさんは、おどけながら健人に言った。
「身に染みます」
健人も笑いながら返した。
健人は、おじいさんの後ろ姿を見送ると、意を決してコインロッカーを開けた。
コインロッカーは、空だった。
最終金曜日、健人は思い出の品として二人が写った写真を持ってきた。
(誠との思い出なんて、今俺が持っているのは、これくらいしかないな)
最終電車を見送り、そのままホームに立っていた健人の前に電車が止まった。驚いている健人に、電車から降りてきた女性が話しかけた。
「こんばんは、私は案内人の加奈です。あなたが会いたい人は茂森誠さんで間違いありませんか」
「はい、そうです」
「では、思い出の品をお願いします」
健人は、慌てて写真を差し出した。しかし、案内人は受け取らず首を横に振った。
「これじゃ駄目ですか?」
健人がそう言うと、案内人は健人のポケットを指差した。
「ポケットには鍵と財布しか入ってないですけど」
そう言うと、手のひらの上にのせて案内人に見せた。すると、案内人は鍵についているサッカーボールのキーホルダーに触れた。
「こちらお預かりでよろしいですか」
その時、昔からつけているそのキーホルダーは誠とお揃いで買ったものだった事に気がついた。
「はい、大丈夫です」
健人は、鍵からキーホルダーを外すと案内人に渡した。
「サッカーボールのキーホルダーお預かりします」
その後、案内人は健人に電車の説明を始めた。
「では、行ってらっしゃいませ」
電車に乗り込んだ後も健人はどこか信じきれていなかった。まるで、夢をみているような不思議な感覚を健人は感じていた。
しかし、再会駅に着き、一人の男性が乗ってきて健人は驚いた。その男性は乗り込むとまわりをキョロキョロしていた。
(誠なのか?)
その男性は、健人よりも背が高く、がたいが良くて、背が小さいくてからかわれていた誠の面影はないように見えた。でも、振り返ったその顔には小さい時の誠の面影があった。
「もしかして、健人か?」
先に声をかけられた健人は、びっくりしながらも答えた。
「ああ、そうだよ。もしかして、誠か?」
「そうだよ。久しぶりだな」
(本当に、誠に会えた…)
健人は、やっと自分の願いは叶えられたのだと実感した。
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