4-2 昔の友達に会いたい(皆川健人の場合)

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4-2 昔の友達に会いたい(皆川健人の場合)

「夢で大人の健人に会えるなんて、なんか不思議だな」 (そっか。誠は、夢だと思っているのか) 「なあ、健人。この電車はどこに行くんだ?」 「お前それも知らないで乗って来たのか?」  健人が呆れたように言うと、誠は笑いながら、健人と肩を組んだ。 「気がついたら、ホームに立ってたんだよ。そしたら、電車来た」 「だっからって何も考えずに乗ったのかよ」 「そりゃあ、乗るだろう。楽しそうだし」  誠の笑顔は昔のままで、健人は少し、安心していた。そして、健人は何も知らない誠にこの電車の話を聞かせてやった。 「ふーん。じゃあ、健人が俺を呼んだってことか」 「まあ、そうだな」 「不思議な電車ね。こんな夢を見るなんて、俺って実はファンタジーな話、好きだったんだな」 「お前、信じてないだろう?」 「そんな事ないよ。そうか、じゃあ最初は二人の出会い。幼稚園か」 「そうかもな」  駅は、二人の予想通り幼稚園に止まった。 「やっぱり、幼稚園だ!懐かしいな」 「あの頃の誠は、小さくて可愛かったよな」 「いやいや、お前だって小さかっただろ」  二人は昔に戻ったように楽しく笑った。  その後も、たくさんの駅に止まった。小学校の駅では当時いた面白い先生や友達の話など二人の話題は尽きなかった。  そして、二人が一緒に通っていたサッカークラブに止まった。 「懐かしいな、健人。いつも暗くなるまで一緒に練習したよな」  誠は、楽しそうに話したが、健人は何も答えられなかった。 「どうした、健人?」 「俺、誠に謝らないといけないよな…」 「謝る事?」 「あの時、酷い事言ってごめんな」 「もしかして、最後に会った時の事か。それは、むしろ俺の方がお前に謝らないといけないよ。ちゃんと説明できなくてごめん」  それは、小学5年の時だった。  夏休み、サッカークラブの練習の帰り道に、誠は健人に突然、遠くに引っ越す事になったと言った。 「え!引っ越すっていつだよ」 「明日」 「は!?なんでだよ。この前は、今度の試合、お互い必ず点数取れるようお互い頑張ろうって言っただろう。お前だって分かったって」 「そうだけど、しょうがないだろう。急に決まったんだから」 「だからって、なんで前日なんだよ」 「急に決まったっていっただろう」 「分かったよ。でも、手紙とか書くから向こうの住所とかおしえろよ」  健人の言葉に、誠は表情を曇らせた。 「あのさ…。俺、サッカーやめるから」 「はぁ?なんでだよ!引っ越したって、サッカーをやめることないだろ。一緒に将来はサッカー選手目指そうって約束しただろ」 「もう、決めたんだ」 「なんでだって聞いてるだろ。教えろよ」 「お前には言いたくない」 「俺には言いたくないってなんでだよ。俺とお前は親友だろ。違うのかよ」 「健人は親友だよ。でも、言いたくないんだ」 「もういいよ。サッカーをやめる理由をおしえてくれないなら、もう誠と絶交だからな」 「そんな、酷いよ」 「酷いのは誠だろ。もうお前なんか嫌いだ」  そう言うと、悲しい顔をした誠を残して健人は、走って帰った。意地になった健人は、次の日、誠を見送ることもせずに、あの日が最後になった。  その後、健人は誠に謝ろうと連絡をとりたかったが、誰も引っ越し先の住所を知らなかった。そして、健人は誠に謝ることが出来ずに、今にいたるのだ。 「健人だって急に引っ越しが決まったりいろいろ大変だったのに。本当にごめん」 「俺がちゃんと説明しなかったから、しょうがないよ。実は、父親の会社が倒産してさ。田舎のじいちゃんの家に引っ越したんだ。それで、サッカークラブって金がかかるだろ。だから、やめるって決めたんだ」 「そうだったのか。俺、知らなくて、ごめん」 「もういいよ。それより、今は健人は何してるんだ?まだ、サッカーやってるのか?」 「しがないサラリーマンだよ。けがしてさ、俺もサッカーやめたんだ。誠は?」 「俺は、じいちゃんの農家をついで野菜を作っているよ」 「お前が農家か。昔は、あんなにヒョロヒョロだったのにな」 「俺が作る野菜は凄く旨いんだぞ。あーあ、お前にも食べさせたいよ」 「本当か?じゃあ、今度食べさせろよ。お前に会いに行くからさ」 「夢だと分かってても、お前にそう言われると嬉しいよ」 「絶対会いにいくよ。だからこれにお前の今の住所書いてくれよ」 「分かった。絶対来いよ」  誠が健人が差し出した手帳に住所を書き終わると、電車は、別離駅に着いた。 「もう降りなきゃなのか。せっかく夢で会えたのに、残念だよ」 「さっき会いに行くっていっただろ」 「そうだけどさ」  そう言った誠は、思い出したかのようにポケットに手を突っ込むとキーケースから何かを外して健人に渡した。 「健人、これ覚えているか?」  それは、健人が案内人に渡したものと同じサッカーボールのキーホルダーだった。 「覚えてるよ。一緒に買ったやつだろう」 「今でも、それは俺の宝物なんだ。だから、今度それ持って会いにきてくれよ」 「じゃあ、代わりにお前と一緒に撮った写真を預けるから持っていてくれよ」  健人は、誠に写真を渡した。 「懐かしいな。キーホルダー絶対返しに来いよ。待ってるからな」 「分かってる。必ず行く」  二人は固く握手をして別れた。   「お帰りなさいませ」  電車が元いた駅に着くと、案内人が迎えてくれた。 「今日は、ありがとうございました」  健人は、電車を降りて案内人に頭をさげてお礼を言った。頭を上げた時には、案内人も電車も消えていた。  健人は、慌ててポケットを探した。 「良かった。キーホルダーあった」 (あれ?これって誠ので間違いないよな。まさか今までが夢で、これは俺が元々持っていたやつだとか言わないよな。あ!そうだ)  健人は、自分の手帳を慌てて開いた。そこには、あの時見た誠の住所がしっかりと書かれていた。 (良かった…)  健人は、ホームのベンチに座るとすっかり気が抜けてしまい、しばらくぼーっとしていた。 (誠に会えたのは現実だったんだ)  サッカーボールのキーホルダーを持ち上げると、健人は嬉しそうに笑った。 (必ず行くからな…)  健人は、今、北に向かう電車に乗っている。  もちろん、行き先は誠が住む街だ。  誠は一体どんな顔をして自分を迎えるのだろうかと考えると、健人はおかしくてたまらなかった。 (もしかして、夢で見た姿のままの俺が立っていたらあいつ驚いて腰抜かすかな)  健人は、ポケットに入れたキーホルダーを出して改めて見た。 (約束通り、返しに行くからな)  電車の窓から見える景色はいつもより、色鮮やかでそして輝いて見えた。
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