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既に眠そうな弟を徹夜に付き合わせるのは至難の業だった。
「浩哉、しりとりしようよ」
「いや、もう寝たい」
「なぞなぞでもいいよ。【おすが大好きな草ってなーんだ?】」
「……………………」
「ヒントは十五夜の時に月見団子と飾る……」
なぞなぞの答えを言う前に浩哉は寝ていた。
寝て欲しい時はギンギンに起きてるクセに、なぜこのタイミングで寝ちゃうのか。
「ちょっと寝過ぎだよ。何で河原で爆睡したのに普通に眠れるん? ねぇ、起きて。何でもいいから会話しようよ」
耳元で叫んでやろうかと思ったが、濡れタオルの時みたいに静かにブチギレられても困る。睡眠に対する執着が人より強い分、目覚めが悪いと機嫌の良し悪しに直結する。深い眠りに入る前に起こさなくては。
「浩哉、おーきーて」
だめだ。揺さぶっても全然起きない。
気のせいであって欲しいが、背後から強烈な視線を感じる。ぞわぞわする背中。もう嫌だ。早く朝になれ。
ふいに顔の真横から息を吹き掛けられたような、奇妙な風が起きた。弟は寝ている。つまり……これは……何の仕業?
恐怖に駆られるものの、“何も気付いてないですよ“
と言わんばかりに振る舞い、浩哉の上に乗っかる。万が一、手足を掴まれてどこかへ引きずられないように、弟の腕を背中に巻き付ける。いわばセルフガーディアンだ。持って行くなら浩哉ごと連れて行け!
『…………今度は何の嫌がらせ?』
自分を奮い立たせる為に、訛りの強い道着姿の黒髪マッチョが金髪や青色赤色に変身するテーマソングを熱唱すると、ついに寝太郎が目覚めた。
「嫌がらせじゃないよ。怖いから歌って誤魔化してたんだ」
「そっちじゃない。……自分の体勢、わかってる?」
気まずい感じで言うが、単に浩哉の上に跨っているだけだ。まぁ、多少バスローブがはだけているが、普段プロレス技であれこれしてくる奴に文句言われる筋合いはない。
「それより何か飲まない? お茶なら私が淹れるし」
「……そうする」
やたら上を気にしているから、何気なく見上げて理由が判明。天井の鏡がムダに扇情的に映し出している。速攻、弟から飛び退きバスローブを整えた。
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