ヤンデレ弟と奇妙な夏休み

弟はヤンデレ

　そんな訳で、姉弟関係はギリギリをキープしている状態だ。
父を亡くし多忙な母は家を留守にしがちで、ほぼ二人っきりの生活を余儀なくされている。

　ただ、私はゴリゴリの体育会系で高校も推薦で入学したから、陸上の大会シーズンになると遠征やら強化合宿やらで数日家を空ける事もザラだ。意外と弟と過ごす時間は少ない。ヤンデレではあるが、文句を一切言わずに家事全般を引き受ける弟にはとても感謝をしている。変なスイッチさえ入らなければ、浩哉はめちゃくちゃ良い家族なのだ。

まぁ、スイッチが入るとかなりヤバイんだけど。

○

『そいつ、誰？』

　恐怖の強化合宿を終えて、３日間フリー（部活休み※ただし各自練習する）をゲットした私は、浮ついた気持ちで画像を眺めていた。
すると、背後から低い声がしてヒョイッと奪われるスマホ。画像は他校のイケメン陸上部。たったそれだけで、弟のヤンデレスイッチが入っちゃうから困りものだ。

「合宿で一緒になった子。めっちゃ速い」

　なるべく“男子部員のその他大勢ですよ”という風に説明し、深入りされないように気を遣う。
しかし弟は無言で写真フォルダを検閲(けんえつ)。当然の権利のごとく、人の交友関係にもバリバリ干渉してくるので気苦労が絶えない。

　しばらく写真をチェックしていた弟がギョッとした顔になり、乱暴にスマホが返却された。
おそらく女子部員とふざけて撮った際どい写真を見てしまったらしい。こういう時の為にあえてヤバイ写真を仕込んでいる。

「陸上部にしては面(つら)の良い奴だな」

全国の陸上男子を敵に回すような問題発言だが、確かに中長距離は他のスポーツに比べてイケメン率はとても低い。

「浩哉の顔もイケメンだよ」

　すかさずお世辞をいう私。お世辞ではあるが、弟の顔は身内びいきなしでもかなりの美形だ。両親も美男美女。もちろん私も美形……だったら良かったのに、負の隔世遺伝(かくせいいでん)がビンゴして、親族の中で唯一タヌキ顔の祖父似となってしまった。
解せぬ。