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不幸から幸せ
「やーい泣き虫〜!」
「名前泣いてんだし泣けや!」
「大泣きやん〜!」
「名前雑魚!」
親に貰った名前のせいで、俺はいじめにあって苦労した。
涙雨なんて言う自分の名前を好きになれなかった。
学校には行けなくなった。
最初は面倒だから、が理由だった。
中学は、何故か怖くて行けなかった。
学校には行かないくせに、外への散歩は好きだった。
親には沢山怒られた。サボりだの、グレてるだの。
俺がこうなったのは、親のせいだ。
ある日、散歩中に学校帰りに遊んでる同級生に声かけられた。
「泣き虫の涙じゃね?」なんて後ろから声がした。
それ以来、外に出るのも怖い。
欲しいものは、ネットでぽちるようになった。
気づけば、同級生は卒業証書を持って外を歩いていた。
暗い部屋の窓からそれを見ることしか出来ない自分に腹が立った。
自分に腹が立ったのか、分からない。
なんであいつは笑って卒業出来てんだ、と同級生に腹が立ったのかもしれない。
いても立っても居られず、ネットで参考書をひたすらポチッた。
ネットで買う時は慎重になり、一つ一つのレビューを確認していたが、この時ばかりは一切見ずに多く購入した。
悪いことしたやつが笑っていて、された側の俺が部屋にこもって無駄な日々を過ごしているのが酷く嫌に感じた。
2年後に、通信制の学校に受かった。
たまにスクーリングに行くため家を出るが、俺はもう怖くない。
髪を染めてイメチェンした。
親には怒られたが、これは俺の道だと言い返したら何も言われなかった。
それに友達もできた。恋人もだ。
同じ通信の人で、男だ。
初対面で、「綺麗な名前だね」なんて言って褒めてくれた。
それからは連絡先も交換してよく遊ぶようになった。
俺は良い友達だと思っていたが、相手が告白をしてきた。
戸惑ったが、嬉しさが何よりも大きかった。
手を繋いだりハグしたりするのは早かった。
キスは半年、体を繋げるのには1年半かかった。
俺の事を大事にしてくれるやつだ。
毎日口癖のように好きだ、愛してると伝えてくれる。
俺の幸せはここにあるんだと、翠の隣にあるんだと知った。
体を繋げてからは、デートの別れをお互いに寂しいと口にすることが増えた。
同棲までは時間がかからなかった。
親には、男となんて続くわけが無いと言われたが、俺の幸せを壊してきたのはいつだって親だった。
だから何も言わずに家を出た。
翠の両親に挨拶をしに行った時、驚いていたが俺のことを認めて大切にしてくれた。
「人を好きになることに、性別は関係ない」と。
この時俺は、すごく嬉しくて涙を流して泣き虫涙雨になった。
「涙雨は泣き虫だなぁ」なんて背中を撫でて笑う翠に嫌な気はせず、むしろ嬉しかったのを覚えている。
「涙雨、おはよう」
「おはよう翠。愛してるよ」
「いきなりだね。それに、朝から熱烈。俺も愛してるよ」
泣きたくなるほどに幸せだ。
おはようと言うと、おはようが返ってくる。
好きだと、愛していると言えば当たり前のように返ってくる。
「涙雨?涙、でてる…嫌なことあった?」
「ううん、幸せだなって思ったら涙が出てきちゃって」
幸せは、人それぞれだ。
ちゃんとした仕事について、女性と結婚して、子供を授かって、幸せに暮らす。
それが当たり前だとみんなは言うけれど、俺の幸せは、翠といる事だ。
「涙雨は泣き虫だなぁ〜。可愛くて、もう堪んない。」
「俺も、翠がかっこよくて堪んないっ…」
今日も俺は、泣き虫涙雨で生きていく。
幸せに、生きていく。
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