八月七日

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八月七日

「なあ、あれってお前さんが言ってた彼女じゃないの?」 「え」  この場所で出会った、カードゲーム仲間のおじさんにそう言われて、僕は眼を見開いた。  僕と違って、彼はしょっちゅう下界の様子を水晶で覗いているらしい。ほら、と彼は支給された水晶玉を僕に手渡して示してくる。そこには、とある公園の紅葉の木が移っていた。今は夏なので、葉っぱは赤くなっていないのだけれど。 「八月に待ち合わせしてたんだろ。大体、今日くらいじゃなかったっけ?」  その紅葉の木の前のベンチに、一人の女の人が座っている。あ、と声を上げる僕に、おじさんはあっさりと言った。 「いや、お前さんが気にしてないみたいだから言わなかったんだけどさ。そういえば、去年も同じくらいの時期になると公園で座って待ってたんだよなあ。そういえば一昨年もだっけ?結構な雨だったのに」 「ちょ」  僕はぎょっとして、ついおじさんに詰め寄ってしまったのだった。 「何でそんな大事なこと、教えてくれなかったんですか!?」  なんせ、こっちはまったく気づいていなかったのだ。  あの薄緑色のスカートの女性には、見覚えがある。見覚えがあるどころか、忘れるはずがないその人物。  まさか、彼女は毎年のように八月七日に待っていたのか。――もう二度と来ることがない、恋人の来訪を。
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