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晴香はいわゆる、いいところの御嬢さんといった女性だった。医者の家の次女。いつもみんなよりちょっと高級でお洒落な服を着ていて、それでいて言葉遣いも所作も何もかも洗練されていてイヤミがない女性。何より、おっとりしていてマイペース、誰にでも心優しいときている。派手な美人たちと比べれば見劣りするのかもしれないが、そこにいてくれるだけで雰囲気がほんのり明るくなるタイプとでも言えばいいのか。
周囲をほっとさせてくれる、一輪の優しい色の花。彼女はそういう存在だった。僕のように、取り柄らしい取り柄など何もない男が射止められたのは奇跡のようなものだろう。
なんて、大学時代につい酔っぱらってぼやいたら、彼女にはデコピンをされて叱られたわけだが。
『陸也さんのそういうところだけ、私は嫌いです。何で、私が大好きな陸也さんの魅力を認めてあげないんですか?おこですよ?』
おっとりした彼女だったが、実は結構強情な一面もあり。特に、自分が絶対に間違っていないと自信を持っている一部ジャンルに関しては、誰になんと言われても譲ることをしないのだった。この時もまさにそれ。
何故か彼女は、僕のことを“とても素敵な男性”だと本気で思ってくれているらしく。僕がネガティブになってぼやくと、すぐそうやって怒ってくれるのだった。
『私は、自分が持ってないものを持っている人が好きです。陸也さんは私が作れないオムレツやギョーザが作れて、それがめっちゃ美味しいです。私と違って頭も良い上にお人よしだから、後輩にすぐ勉強教えてあげちゃって私はすこーし嫉妬します。でもそういう優しいところも好きだから複雑です。……陸也さんは凄いところ、良いところがたくさんあるんだから、もっと信じてあげてください。じゃないと、今度はダブルデコピンですよ?』
怒った顔まで可愛い、と言ったらそのダブルデコピンを食らってしまった。まあ、彼女も照れたように笑っていたのだけれど。
そんな彼女は次女なので、特に家のあとを継ぐとかは考えなくても良い立場らしい。ただ、家そのものが格式高いというか、“可愛い娘をどこの馬の骨ともわからん男にやれるか!”みたいなものはどうしてもあるのは間違いないことだった。ていうか、僕が父親でも同じことを言うだろう。あんな純粋培養で、それで魅力的な女性。ちゃんとした家や収入の男に嫁がせたいと思うのは、至極当然のことである。
だから僕は、学生時代の三年間みっちり彼女と付き合ったあとで話をしたのだ。
『僕、きちんと晴香に釣り合う男になりたいっていうか。……ご両親に納得して貰える結婚がしたいんだ。だから、少しだけ待っててくれないかな』
『え?両親なら私がちゃんと説得しますよ?私が何が何でも譲らなければ結局折れますから、大丈夫です』
『……君のご両親がどんな苦労をしてきたか大体想像がついたよ。その気持ちは嬉しいけど、こればっかりは駄目なんだ。僕は、ちゃんと君に相応しい男になりたいんだよ』
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