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稚依子が少しずつ泣き止み始めた時、彼女の頭の上に再びオーラが出てきた。朝とは違い、今度は緑色だ。
「……フワフワ出てますか?」
俺の視線に気がついたのか、稚依子が聞いてくる。
「ああ。緑色のやつだ」
「なんでしょう。ベルさんと仲直りできて安心したからでしょうか」
そう言って涙目で微笑む彼女に、なぜか心臓がチリリと痛んだ。
「……その、」
「食べていいですよ」
「いいのか」
「はい、これは自然に出てきたものなので」
今日は許可が出た。それならと一歩近づくと、なぜか彼女が一歩下がる。
「……いいんじゃないのか?」
「いいんです!いいんですけど、久しぶりなので緊張するといいますか……」
わけのわからない言い訳をする稚依子にグッと近づく。稚依子は背中がドアにピタリとくっついてしまい、もう逃げ場がなかった。ドアに手をつき、舌を伸ばす。ギュッと目を瞑る稚依子が、なんだか可笑しかった。
「こんなにうまそうなオーラを出しておいて、逃げるな」
「……っ」
そのまま、彼女の頭の周りを舌で絡めとる。うまい。体が芯から温まるような味で、ポカポカと体温が上がった気がした。
「終わったぞ」
「え?あ、はい。どうも、それはよろしかったです」
ごにょごにょとわけのわからない発言をするから、クスリと笑ってしまった。そわそわと揺れる彼女の髪から、滴が垂れる。
「稚依子、今更だが早く風呂に入った方が良い」
「はっ!たしかにそうですね。雨の予想時刻までに帰る予定だったのですが、今日に限って残業しなきゃいけなくて……お店にも寄ってきたので結局雨に降られてしまいました」
へへっと笑いながら、ずっと抱えてたのか、くしゃくしゃになった紙袋を見せてくる。
「それは?」
「ハーブティーです。ベルさん香りが良いものが好きだから気にいるかもと思って。……これで仲直りしようと買ってきたんです。急いでお風呂に入ってくるので、上がったら一緒に飲みましょう」
そう告げると、俺に紙袋を渡してそのまま脱衣所に消えていった。……まただ。なんの得にもならないのに、俺のことを気遣って、必死に喜ばせようとする。
リビングに戻りテーブルに紙袋を置いた後、ずっと置きっぱなしになっていた袋に手を伸ばす。これを着た俺を見たら彼女はどんな反応をするだろうか。どんなリアクションであれ、彼女のコロコロ変わる表情を見れるだけで袖を通す価値があるかもな。そんなことを考える自分が可笑しくて、一人苦笑いをした。
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