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ペット自慢【chiko】
「ねぇ、もしかして新しい男できた?」
念願のランチタイムが始まってすぐ、佳苗先輩が急にそんなこと聞いてくるから、思わずむせ返る。
「げほっ!そ、そぼろが気管にっ……!」
「やっぱり。そうだと思った。なんで教えてくれないのよ〜」
「げほっげほっ……違っ……げほっ!」
早く否定したいのに、そぼろの苦しみがなかなか終わってくれない。そんな私を心配する素振りも見せずに、佳苗先輩は勝ち誇ったようにミートボールをパクリと食べた。彼女は入社当初から同じ総務部でお世話になってる先輩で、仕事以外でも一緒に飲みに行ったりと仲良くさせてもらってる……けど、こんなに苦しそうに後輩がむせてたら、少しは心配して欲しい!
ようやく呼吸が落ち着いてきて、やっと反論することができた。
「できてないですって!」
「嘘。だって最近アイツが来ても全然動揺しなくなったじゃない」
先輩が親指を自分の後ろにクイクイッとする。ヒョコッと顔を出して指の先を見ると、元彼の白石さんが隣の人事部に顔を出していた。彼の周りを複数の男女が囲んでいて、相変わらずの人気ぶりがわかる。
「そういえばそうですね。まぁ、まだ少しズキっとはしますけど……」
姿勢を戻して、お弁当に戻る。次、今朝ベルさんに勧めた卵焼き食べよう。もちろん口に入れることは断固拒否されたから、お弁当箱にたくさん入ってる。
「あいつ、稚依子を観察するためにわざと隣に来てるんじゃない?」
「そんなわけないですよ。私の方が振られたんですから」
「っていうか!そんなことどうでも良いのよ!新しい男ができたって疑う理由はもう一つあるのよ!」
白石さんの話は佳苗先輩が始めたのに。でもそこはスルーしてあげて、続きを待つ。
「稚依子最近、すごく楽しそうに帰宅するわよね?」
「へ!?」
「飲みの誘いも断るし」
「そ、それは……前から言ってるじゃないですか」
「……それもあのペットのせいなの?」
「ペットじゃなくて同居人です」
慌てて訂正する。自分がペットなんて呼ばれてると知ったら、ベルさん人間界を破壊しちゃうんじゃないだろうか。
「トカゲでしょ?どう考えたってペットじゃない。ていうか同居人って人じゃないし」
たしかに、悪魔は人ではないなぁ。じゃあなんて呼べばいいんだろう。同居悪魔……?
「新山先輩、トカゲと一緒に暮らしてるんですか?」
一人で考え込んでしまったところに、後輩の橘君がランチから帰ってきた。
「そうなの」
「トカゲって飼育大変って聞いたんですけど、実際どうなんですか?ご飯とか」
「うーん。そんなに大変じゃないよ?ほとんど草食べてるし……」
「草食なの?トカゲって虫しか食べないんだと思ってたわ」
「虫はあげたことないなぁ……あとはコーヒーとか……」
「「コーヒー?」」
あ、ヤバい。これは流石に変だったか。なんて冗談ですって、乾いた笑いで誤魔化す。
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