ペット自慢【chiko】

1/3
前へ
/119ページ
次へ

ペット自慢【chiko】

「ねぇ、もしかして新しい男できた?」  念願のランチタイムが始まってすぐ、佳苗(かなえ)先輩が急にそんなこと聞いてくるから、思わずむせ返る。 「げほっ!そ、そぼろが気管にっ……!」 「やっぱり。そうだと思った。なんで教えてくれないのよ〜」 「げほっげほっ……違っ……げほっ!」  早く否定したいのに、そぼろの苦しみがなかなか終わってくれない。そんな私を心配する素振りも見せずに、佳苗先輩は勝ち誇ったようにミートボールをパクリと食べた。彼女は入社当初から同じ総務部でお世話になってる先輩で、仕事以外でも一緒に飲みに行ったりと仲良くさせてもらってる……けど、こんなに苦しそうに後輩がむせてたら、少しは心配して欲しい!  ようやく呼吸が落ち着いてきて、やっと反論することができた。 「できてないですって!」 「嘘。だって最近アイツが来ても全然動揺しなくなったじゃない」  先輩が親指を自分の後ろにクイクイッとする。ヒョコッと顔を出して指の先を見ると、元彼の白石さんが隣の人事部に顔を出していた。彼の周りを複数の男女が囲んでいて、相変わらずの人気ぶりがわかる。 「そういえばそうですね。まぁ、まだ少しズキっとはしますけど……」  姿勢を戻して、お弁当に戻る。次、今朝ベルさんに勧めた卵焼き食べよう。もちろん口に入れることは断固拒否されたから、お弁当箱にたくさん入ってる。 「あいつ、稚依子を観察するためにわざと隣に来てるんじゃない?」 「そんなわけないですよ。私の方が振られたんですから」 「っていうか!そんなことどうでも良いのよ!新しい男ができたって疑う理由はもう一つあるのよ!」  白石さんの話は佳苗先輩が始めたのに。でもそこはスルーしてあげて、続きを待つ。 「稚依子最近、すごく楽しそうに帰宅するわよね?」 「へ!?」 「飲みの誘いも断るし」 「そ、それは……前から言ってるじゃないですか」 「……それもあのペットのせいなの?」 「ペットじゃなくて同居人です」  慌てて訂正する。自分がペットなんて呼ばれてると知ったら、ベルさん人間界を破壊しちゃうんじゃないだろうか。 「トカゲでしょ?どう考えたってペットじゃない。ていうか同居って人じゃないし」  たしかに、悪魔は人ではないなぁ。じゃあなんて呼べばいいんだろう。同居悪魔……? 「新山先輩、トカゲと一緒に暮らしてるんですか?」  一人で考え込んでしまったところに、後輩の橘君がランチから帰ってきた。 「そうなの」 「トカゲって飼育大変って聞いたんですけど、実際どうなんですか?ご飯とか」 「うーん。そんなに大変じゃないよ?ほとんど草食べてるし……」 「草食なの?トカゲって虫しか食べないんだと思ってたわ」 「虫はあげたことないなぁ……あとはコーヒーとか……」 「「コーヒー?」」  あ、ヤバい。これは流石に変だったか。なんて冗談ですって、乾いた笑いで誤魔化す。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加