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「何を食べられるかわからないので、とりあえず全部乗せちゃいました。」
目の前に、白いお皿が置かれた。皿の上には、黄色と白のブヨブヨした物体や、緑色の葉っぱ、茶色い細長いもの、そしてこんがり焼けた四角い物体……。
「これは……」
「目玉焼き、サラダ、ウィンナーにトーストです」
全く食欲をそそられない見た目にゲンナリしてしまう。本当に食べ物なのだろうか。
「……やっぱり、感情しか食べないんですか?」
「いや、そんなことはない。人間の感情は特別な食べ物で、魔界では普通の飯を食っているが……」
「いるが?」
「これは何というか……見た目が……カラフルすぎる」
「なるほど。魔界の食べ物は白黒なのでしょうか……。お口に合わなければ残してもらって大丈夫ですからね」
いただきますと手を合わせて、人間は皿のものをモリモリと食べ始めた。……腹は減っているし、仕方ない。一口ずつ試してみるか。
舌を伸ばして、絡め取り、口に入れる。どれも、今まで食べたことない不思議な味だ。唯一、パリパリとした緑の葉っぱだけは美味く感じた。
「サラダならいけそうですね?」
「ああ、美味い」
「良かった!追加で持ってきますね!」
嬉しそうに席を立って、キッチンで次々と葉っぱをちぎっていく。その様子を半ば呆れながら眺めてしまった。
「人間」
「新山稚依子です」
「新山稚依子」
「稚依子で良いですよ」
「……なんでお前は俺を怖がらないんだ」
俺の質問に、稚依子はキョトンとしながら動きを止めた。
「もちろん、朝起きた時は驚きましたよ。昨日のことは夢だと思ってたので、目の前でテーブルに突っ伏しながらスヤスヤ寝てるトカゲさんを見た時は思わず叫びそうになりました」
「……だろうな」
人間に寝ている姿を見られるなんて……情けなさすぎて頭が痛い。
「でも、昨晩のことを思い出したら、全然悪い人……じゃなかった!悪い悪魔じゃないなと思って。とりあえず様子を見ようと思って、今に至ります」
そう言いながら、俺の前に山盛りの葉っぱが入ったボールをコトンと置いた。人間とはもっと脆くて繊細な生き物だと思っていたが、案外図太い生き物なのかもしれない。
パリパリと追加の葉っぱを口に入れながら、ニコニコと朝ごはんを食べる稚依子を眺めた。
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