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近所の商店街をウキウキしながら歩く。みんなには見えていないけど、隣にはちゃんとベルさんがいる。右手にある尻尾の感触が、その証拠だ。
「おい、あまり引っ張るな」
「ごめんなさい、痛かったですか?」
「痛くはないが、歩きにくい。あと、そんな大声で話すと目立つぞ」
たしかに、たった今すれ違った数人が不思議そうにこちらを振り返っている。慌てて左手でスマホを出して耳に当てた。
「こうしていれば、どこからどう見ても電話をしている人です」
「……デンワ?」
「魔界って電話もないんですか?電話は離れている人と話せる道具ですよ」
「遠くにいるやつと話したいと思わない。近くにいるやつとも必要最低限しか話さない」
「聞けば聞くほど魔界ってドライですね。でもベルさん、私とはたくさん話してくれるじゃないですか」
「……お前が話しかけてくるからだろう」
そうなのか。もしかしたら、ちょっとうるさいなんて思ってるかもしれない。せっかくの同居生活。お互い心地良く過ごすためにも、会話はちょっぴり控えよう。
そんなことを考えていたら、目的地のスーパーにたどり着いた。店に入り、買い物カゴを取る。あ、しまった。右手にベルさんのしっぽ
、左手にカゴで、両手が塞がってしまった。これじゃ商品を取ることができない。
「ベルさん、しっぽ離します。必ずそばにいてくださいね!」
「わかったから、なるべく小さな声で話せ」
たしかに、両隣のおばちゃんから不審な目で見られている。今日は何にしようかな〜と独り言で誤魔化しながら、ススーとその場を離れた。ベルさんと外でコミュニケーションを図るのが、こんなに難しいとは……。何か新しい方法を考えなきゃな。
気を取り直して、店内を見渡す。入ってすぐは果物のコーナーだ。あ、バナナとかいいんじゃないかな。
「ベルさん、これは?」
手にとって、ベルさんが確認しやすいように少し上に持ち上げる。今度はちゃんと小声だ。
「黄色……だな」
「これ、中は白いんですよ。皮は剥いて食べるんです」
「……あまり、そそられないな」
「だめかぁ。……ところで、ずっと聞きたかったんですけど、魔界ではどんな食べ物を食べていたんですか?」
「そうだな。ペペロパルンとか」
「ペペロパルン」
「あとはキュイキュルーノとか」
「キュイキュルーノ……ふふっ」
堪えきれず、吹き出してしまった。だって、まったくわからない上に、響きが無駄に可愛いから!
「おい、一人でニヤニヤするな」
「ふふっすみません!次いきます!」
果物は諦めて、目当ての野菜コーナーに向かった。……うーん、どれがいいんだろう。ベルさんが唯一気に入ってる人間界の物ってコーヒーだよね。苦い物が好き……なのかな。あとは、よく香りが良いって言ってる気がする。それならアレかな?
「ベルさん、これならどうでしょう?」
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