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「綺麗な花だね」
「花……?う、うん綺麗だね」
私は傾げた首を戻して夜空を見上げる。
ドン、という大きな破裂音と共にまた一発大きな打ち上げ花火が夜空に広がった。
「凛桜ちゃん、今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそっ!陽くんが夏祭りに誘ってくれたおかげで今日はすっごい楽しい一日だったよ」
この町の夏祭りはそこそこ大きなお祭りで出店や出し物なんかもいっぱいあるし、今やってる打ち上げ花火は30分かけて2000発もの花火が打ち上がる。
「それにしても陽くん、すごくいい場所知ってたね。ベンチに座れて人も居ないし、そんでもってこんなにばっちり花火が見れるなんて究極の穴場じゃん!」
「花火大会の場所からはちょっと離れちゃったけどね」
ごめんね歩かせてと言って陽くんは顔の前で手を合わせる。背中を丸めた姿がとても可愛い。
「全然全然!こんな綺麗に花火が見れるんだもん。いくらでも歩くよ」
「ほんと?よかった。気にしてたんだ、凛桜ちゃん草履なのに歩かせて大丈夫かなって」
「相変わらず良い子だなぁ陽くんは」
陽くんと私は去年今年と同じクラスの友達同士。学級委員として共に時間を過ごしていくうちに、彼のいいところにだんだん詳しくなっていった。
真面目で努力家なとことか、責任感が強いけど人前は苦手でよくテンパるとことか。
あと意外と頑固で融通の効かないところもあって、そこもまた彼の魅力の一つ。
彼のことを知っていくうちに目で追うようになり、高校に入って初めてできた異性の友達はいつの間にか私にとっての「気になる人」になっていった。
「ていうかほら、むしろ歩けてラッキーって感じ。ほら、今日出店で食べすぎちゃったからその分カロリー消費しなきゃだし」
焼きそばにラムネに綿飴にフランクフルト、お腹いっぱいになるまで食べちゃった……陽くんが好きなものたくさん食べてっていうんだもん。
「なに言ってんの。凛桜ちゃん心配になるぐらい細いじゃん。もっと食べてほしいぐらいだよ」
「え、えええ、そうかな?」
「うん、凛桜ちゃんはすらっとしてて綺麗だけどさ。美味しそうに食べてる姿も僕は好きだよ」
す、すきっていったぁ!
男子高校生が女子高校生に、すきって言った!
こんなんもうあれじゃん!絶対あれじゃん!
私達、両思いじゃん!!
「ど、どうしたの凛桜ちゃん。顔赤いよ?」
「え、えへへ」
やっぱりなー絶対そうだと思ったんだよー。だって普通ある?ただの友達を二人きりで花火大会に誘うなんて。
電話で誘ってくれたときも若干声が上擦ってたもんね。
電車では人混みから自分の身体を盾にして守ってくれて。
私が食べたいって言った綿飴も奢ってくれたり、浴衣姿もこれでもかってぐらい褒めてくれたり……!
確実に私をオトしに来てんじゃん!!
こんなんもう付き合うしかないじゃん私達!
「わっ、見て陽くん。今すごい大きい花火だったよ」
「すごい、満開だ」
「ふふっ、確かにね。満開の花火だね」
陽くんはお団子を齧りながらぽーっと空を見上げていた。なんだかその所作がおじいちゃんっぽくて可笑しい。
「いい天気だねぇ」
「ん?うん、そうだね、晴れてよかったね。雨だったら中止だったもんね」
「また雨天中止はやだもんね」
実は陽くんと二人で遊ぶのはこれが2度目。1度目はまだ高校一年生の春休み。お花見に行こうと誘われたときはとっても嬉しかった。
あいにくその日は午後から大雨で途中解散したけど、あの日も今日と同じぐらいいい雰囲気だった。
「うん、晴れてよかった。絶好の花見日和だ」
「だね、花火日和だね」
花火日和なんて言葉あったっけ?
まぁなんでもいいや、楽しいし。
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