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おそらく、真相はこうだ。
陽くんは春休みのお花見の日に大事な話をしてくれるつもりだったんだろう。大事な話ってのは……つまり、その……あ、愛の告白ってやつ……
だ、だけど雨で途中解散になってその機会は来なかった。
だから4ヶ月後の今日、二人きりでお出かけという絶好の機会にあの日の続きを持ってきたんだ。
律儀に以前の台本を携えて……
あまりにも……あまりにも融通が効かなすぎるよ陽くん!
「えっと、桜の花びらが凛桜ちゃんに」
「ついてないよ!なぜならそもそも桜がないから!」
んーと悔しそうに唇を噛む陽くん。な、なによその顔……ちょっとかわいいじゃん。
チグハグでおかしな私達をよそに花火は進む。花火は残り数発となった。
「ん、んん」
「な、なに急に真剣な顔になって」
陽くんが体ごとこっちを向き、軽く咳払いした後私をまっすぐ見つめる。
あ、やば……そんな真剣な目で見られたら、私も陽くんから目を離せない。
「え、えっとね凛桜ちゃん。今日は君に話したいことがあって」
「う、うん」
「この機会に言っとかないとって思って。2年生になると別々のクラスになるかもしれないし」
そんなことは絶対ない。なぜならもう今2年生で同じクラスだから。なんだったら席も隣だから。
「君とクラスが離れ離れになったら、たぶんこれまで通りの距離感じゃいられなくなる」
「そ、そんなこと……」
「だって!」
「え?」
「だって君は人気者なんだよ。僕と違ってクラスの中心で、君の周りはいつも笑顔で溢れている」
な、なんだこれ!?なんだこの空気!?陽くんが変なこと言ってるのに真剣な表情してるからこっちもなんも言えないじゃん!なんなのこれ!?
「去年もそうだった。君は誰とでも仲良くなる。それはきっと、君が皆の良い所を見つける人だから」
陽くんの手のひらが、私の手の甲に被さる。その手のひらは大きくて、ゴツゴツしていて、ぽっかぽかに暖かい。
「凛桜ちゃん」
「……はい」
「桜のように……誰からも好かれるこの桜のような貴方に」
どの桜!?なんて野暮なことは言えなかった。陽くんの手のひらから伝わる振動は、彼が今どれほど本気なのかを雄弁に語っている。
「そんな貴方に心惹かれる」
あーあ、もうだめ。余裕がない。脳内で散々ツッコんで照れ隠ししてきたけど、もう無理。だめだ、嬉しすぎる。
たぶん今私の耳は陽くんより遥かに真っ赤になってる。
「凛桜ちゃん、僕と付き合ってください」
「……はい、喜んで」
重ねていた手に力が入る。たぶんどちらともなく身体を寄せた。
彼の顔が近づく。私は目を瞑る。
唇が触れる寸前に打ち上げ花火の音が聞こえた。
花火が終わり、そして私達の関係は友達から恋人になった。
「今日は色々振り回しちゃってごめんね?」
「ほんとだよ!まさか好きな人から台本付きの告白を受けるとは思わなかったよ……」
「お詫びと言ったらなんだけど、次のデートは任せてよ!完璧なプランを練ってくるから!」
「もう台本はなしだからね!?」
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