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「...して、許して下さい...」
不意に聴こえてきた声に顔を上げる。
隣にいる顔色の悪いおっさんが俯いたまま、ぶつぶつと呟いている。
月曜の朝、何時もの様に電車に乗ろうとプラットホームに二列で並んでいた。
今日は運良く先頭に並べたし、座れるといいな、なんて考えながら電車を待っていた。
『二番線、普通列車〇〇行きが参ります』
何時ものようにアナウンスが流れ、何時ものように遠くに電車が見えて、どんどん近付いてくる。
これに乗ったら、仕事に行かないとなぁ…。
別に仕事が嫌なわけではないが、ぼんやりとそんな事を考えながら、電車がホームに滑り込んでくるのを見ていた。
「許して……はい、分かりました」
おっさんのそんな言葉が聞こえた刹那、おっさんがふらりと足元の黄色い点字線を越えた。
「危な…!!」
声を掛ける間もなく、おっさんの身体がふわりと宙を舞った。
急ブレーキをかけたらしく、激しい金属音が響いた。
思わず手を伸ばしたが間に合うはずもなく、おっさんは電車に押し出されるように視界から消えた。
鳴り響く金属音と重い物が電車にぶつかる鈍い音がした。
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