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俺の誘拐事件の前に起こった学校への不法侵入事件とあわせて、魔術庁が引き続き捜査するらしい。しかし、少なくとも俺の失踪事件に関しては犯人などどこにもいないので、未解決のまま終わってしまうだろう。騙しているもののスケールがあまりにも大きすぎ、申し訳なさすぎて埋まりたくなる。
これからも勉学に励み、魔術師として一人前になった暁には、必死で人々のために働こう。そう強く思った。それで罪滅ぼしになればいいが……本当にごめんなさい。
肩を落としたまま部屋を出ると、母親……香坂 蕗会が、夕飯の支度をしているようだった。台所を右に左に動く姿は、久しぶりに見ると少し小さくなったように見える。
「なんか手伝うことあるか?」
「ううん、大丈夫」
「そうか。じゃあ、ちょっと庭に出てくる」
「はーい」
サンダルを履き庭へ出る。進学のために実家を出てはや四ヶ月……こうして久々に戻ってきたわけだが、特に変わった様子はなかった。ぬるい風が頬を撫でるのに合わせ振り返れば、やや古ぼけた小さな平家が夕暮れの空と木々の中に佇んでいる。
小さい頃に散々駆け回った庭には、今は母親の趣味で目いっぱい植えられた花々が揺れている。透子や銀川先生なら名前を知っているかもしれないが、俺の知識にはない。
庭の隅には母親が耕したこぢんまりとした家庭菜園。野菜がぽつぽつと実っている。久々にトマトを丸かじりしたくなって捜索したが、食べどきのものはもう残っていなかった。そのかわり、井戸水でスイカが冷やしてあるのを見つけた。ここでスイカは作っていないので、買ったかもらったかしたのだろう。
近くに寄ってみると、二人で食べ切れるかわからないほどの立派なものだった。夕飯の後に切ってくれるのかな……期待に胸を躍らせながら金だらいに浮かぶスイカをつついていると、掃き出し窓から母親が身を乗り出している。
「環、ご飯できたわよ。入ってきて座ってて」
「ああ、わかった」
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