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居間に戻り、座卓につく。目の前のテレビに映されているのは、ここにいた頃には毎日見ていた夕方のローカル番組。気象予報士のお兄さんが、明日も暑さが厳しいことを手描きのイラストを交えながら伝えている。難しい資格を持っている上に、絵心まであって羨ましいな。と思いながら天気予報に見入る。
「これも久しぶりに見るでしょ」
「うん。相変わらず絵がうまいよなあ」
母親との何気ない会話。この春まではこれが毎日の光景だったのに、今はなんだか懐かしい。帰ってきたんだなあ。しみじみと感慨に浸っていると、目の前に夕飯が並べられていき、最後に落とし卵の味噌汁が運ばれてくる。そのまま向かいに母親が座った。
「さて、食べましょうか」
「そういえば、今日は豪華だな。ありがとう」
味噌汁以外にも唐揚げにエビフライ、トマトのサラダ、きんぴらごぼうに肉じゃが、おまけに刺身まで並んでいる。どれもこれも好きなものばかりだ。
「そお? 久しぶりだから頑張ったけど、寮のご飯には負けてるでしょ」
「そんなことないよ。おいしそうだと思う」
「……ふふっ。女の子ばっかりのところにいるからかしらね、なんだか話し方が優しくなった気がする」
「別に、ふ、普通だよ……」
母親に笑いかけられると妙に照れ臭くなって、頭をかいた。
◆
やはり話題は……話せるのかどうか不安だったが、母親相手だと声が出たことに安堵した。どうしても見聞きしたことを伝えたかったからだ。
向こうは、こことなんら変わらなかったこと。ただ、男の人も魔術を普通に使っていたこと。父親は一人暮らしで、父親と仲のいい人にもよくしてもらったこと。医学校に推薦するから医者にならないかと言われたこと。
外食に連れて行ってもらったり、一緒に料理を作って食べたこと……魔術を教えてもらったり、母親が使っていた教科書を、今でも大切にしていたこと。落とし卵の味噌汁を懐かしんでいたこと。会いたいけど、今さらどんな顔をして会ったらいいのかわからないと言っていたこと。
向こうに行くことができない母親は話を黙って聞いて、少しだけ潤んだ瞳を俺に向けた。
「ねえ。どうして、帰ってきたの?」
「どうしてって……やっぱりこっちがよかったからだよ。あと、母さん一人だと寂しいかなとか、そんなことを思ったりとか」
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