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それを聞いた母親は目元を拭ってから笑った。
「……ふふ。もしかして、好きな女の子に呼ばれたのかしら?」
全く噛み合わない返答だが、まさにど真ん中を射られたかたち。ぎくりと肩が揺れ、箸で摘んでいた唐揚げを落とした。取り皿に乗せていたサラダの上にうまく着地し、事なきを得たが。不意打ちに心臓が暴れる。
「っ!? は!? どうしてそうなるんだ……やめてくれよ、ほんと、そういうの」
とっさに繕うこともできず、わかりやすい態度をとってしまった……そうでなくても母親が手練れの魔術師というのは本当に厄介だというのに。向こうがその気になれば何もかもを読まれてしまい、隠し事なんかできないのだ。
「あら、どんな子かのかしら。また今度、紹介してくれる?」
この母に勝つことなど不可能だ……俺はこの場から逃げることを選び、落とした唐揚げに箸を突き刺して口に入れ、続けてサラダをかきこみ全速力で咀嚼して飲み込んだ。
「ご、ごちそうさま!!」
「ふふ、おそまつさまでした」
母親には目を向けず、皿を集めて流しに下げ、自室に逃げ込みため息をつく。
そりゃまあ、いつかは紹介できればいいけど……でもお付き合いはまだ始まったばかり、今はそっとしておいて欲しいのが本音だった。
それはさておき。まずは退院したことを報告しなければならないなと、スマホを手に取る。まずは森戸さんと透子、紺野先生の順に『無事退院しました。特に異常はありませんでした』とメッセージを打つ。
珠希さんには……電話にしようか、メッセージにしようか。学校は今日が終業式、明日は寮の大掃除があるらしいので、今日はまだ寮に残っているはずだ。とりあえず声が聞きたいので、メッセージを送ってみて何時なら話せるか聞いてみよう。
『退院して実家に戻りました。電話をしたいのですが、都合がいい時間を教えてください』
……ちょっと硬いかな。まあ、最初は丁寧すぎるくらいで、これから擦り合わせていくことにしよう。送信。
そういえば、彼女は実家に帰れない身だと聞いたことを思い出す。閉寮期間中はどうするのだろうか。
そうだ。ふとある考えが頭をよぎった時、背後のふすまがそっと開き、母親が顔を出した。
「ねえ、環。怒ってるの?」
「なんだよ……別にそういうわけじゃない。ちょっと、今はほっといてくれ。話したくない」
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