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魔法科専門学校に入学してできた初めての友人たち。
ライアンはどんな考えでも肯定して受け入れてくれる。ディランは口は悪くて素直じゃない。クロエは小言が多く煩い。
一緒にいることで苛々することも覆いが、それでも、彼らは彼らなりの優しさをぶつけてくる。
難しい優しさをどうやって受け取ればいいか分からないなりにも、彼らと一緒にいることを苦に感じていない時点で、きっとそこにはかけがえのない何かが生まれ始めているんだろう、なんてどこか他人事のように思い、目の前のオムライスを再びスプーンに乗っける。
「今度、一緒に――」
「東区及び南区で襲撃がありました。学生の皆さんは今すぐ来てください!」
声を遮った、ある女の兵士の声。
食堂に響き渡り、先ほどまで騒がしかった空間は一瞬にして静まり返る。
「高学年は外にいる上官の支持を。低学年は私たちと避難誘導をしてください」
そしてもう一人、別の兵士の発した言葉でざわざわと学生たちは話始める。
何が起こったのかが分からない。いや、分からないじゃない、頭が追い付かない。
東と南で襲撃があったということは、海からの敵襲なんだろう。でも、小さな争いはよくあったし、海賊だって最近捕まった。
それならなぜ、襲撃に……。
「リヒト!」
「え」
「ぼーっとしてない。話を聞きに行くわよ」
「あ、うん……」
クロエに無理矢理立たされて周りを見渡せば、学生たちは動き始めている。
ライアンは先ほど指示を出した兵士の所に行って話を聞いている。ディランは蟀谷を杖の先端でさし、目を瞑り、音魔法を発動させて状況を確認し始めている。
「おい、なんか」
「え?」
ディランの耳からは血が流れ始め、腕を掴まれる。
「岩が落ちてくる」
「は?」
「守れ、リヒト」
「何言って……っ」
ディランに掴まれた腕によって、音魔法が発動されて自分にも何かが落ちてくるような音が聞こえる。
そのものが何かは分からないが、ディランの言う通り食堂全体を防御魔法で作り出した壁で覆えば、それと同時に食堂の南にある校庭に巨大な岩が落ちる。作り出した防御魔法は集中していないと壊れ、これ以上の被害を出さないためにと食堂を守るのではなく、岩を防御魔法で覆うことにする。
でも、もっと早い段階で覆う必要があった。
校庭には人がいた。
上官の指示を聞くために出た学生や、避難所に逃げるために外にいた学生が。
人を潰し、草木を、建物を壊した岩。
辺りが収まれば、その光景を人は見るだけで動くことはできない。
それでも時間がたてば状況を飲み込めるものが増えていき、腰を抜かし立ち上げれない者や耳を塞いで泣き喚くもの、発狂するものなどが後を絶たなかった。
これが、リヒト・パーカーの暗闇の始まりだった。
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