1-2.お前にとっての貴族は、そういうのだろ。

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「ディラン」 「あ?」  先ほどまでクロエを睨んでいた眼が俺に向けられ、その目を見返す。  色素の薄い瞳に映る、弱弱しい自分の姿に目を逸らしそうになったが、今は自分ではなくディランと話さなくてはいけない。 「……クロエが言ったように、少し頭を冷やしたほうがいい」 「は? お前もあいつの味方」 「でも。頭のいいお前が単独行動することのほうが分からないから、どうしてか教えてよ」  ディランの言葉を遮るように話せば、彼は目を逸らす。そして小さな声で話し始めた。 「東区に、叔父がいるんだよ。さっき音魔法で連絡とろうとしたけれど、全然取れねぇ。…………俺が行って、叔父を見つけたところで足手纏いになることは分かってる。でも、もし、動けない状況だったらって思ったら」  握りしめた腕は、クロエの腕と同じように力が強く震えている。  ディランと叔父の関係がどういう者かは知らない。もとより彼は家族の話を嫌う人間だった。でもその人間が、“叔父”という血縁関係のある人間の話が出てくることに、それほどの思いがこもっていることが分かった。 「…………わかった」 「あ?」 「最近、浮遊魔法と力魔法で長距離でもかなり早くつけることが分かったんだ」 「……?」 「俺は頭はよくないけれど、魔力は人一倍あるからさ。使ってよ」   倒れていた生徒たちを兵士が介抱している横を通り、食堂を出てディランをお姫様抱っこより高い位置まで持っていき、右肩に乗せるような形で抱え上げて空を飛ぶ。  持ち上げる際に抱き上げ方が気に食わないのか文句を言っていたが、これから浮遊と力魔法を使うのにもっと安全な抱き上げ方が思いつかない。  腕だけ持ったら確実にディランの肩が抜けると伝えれば渋々受け入れはしたが、不機嫌な態度は変わらない。  地上の兵士などの大人たちに気付かれてしまい、降りて来いと怒鳴られる中、ある程度の高さにたどり着けば、東から南が明るくなっている。 「これからどうするんだ」 「力魔法の、磁力を使うんだ」 「……は?」 「浮遊魔法って言うのは風の流れを読んで動くことができるんだ。だから、浮遊と風魔法で初めて自由に動き回れる」 「……まあ、そう言われているな」 「でもそれって、ただ風に飛ばされているだけで、周りの影響を考えると限度があるんだ。そこで、磁力。っていっても詳しくないから、磁石の性質を使うんだ」  左手を東区に向けて、目を閉じる。  東区に何があるかは分からないが、距離にすれば約40㎞。短距離なら実際使ったことのある魔法。失敗すれば、最悪死ぬ可能性もある。  尚且つ、死ぬことなく辿り着けたとしても怪我をするわけにはいかない。  向かう場所は戦場。何があるか分からない未知の場所。 「離すなよ、ディラン」 「分かった」  もしもの時のための防御魔法を張り巡らせ、大きく大きく息を吸い、息を止めると同時に力魔法が発動し、体が動き出し目的位置に引き寄せられていく。  防御魔法を張っていなければ、あまりの速さに身体が持たなかった。  マッハ10程度の速さ。体が粉々になっても仕方がないほどの速さだが、40キロを数秒で辿り着くことができる。  でも、やはりそれなりに身体にも負荷が加わっていることは確かで。  止まると同時に発動させていた防御魔法が壊れ、瞬時に水魔法を発動させて水の中に身体を落とす結果となる。後ろを向いていたディランはそのことに気付かず、水に入ると同時に飲み込んでしまったらしく、屋根の上に降りても嘔吐きながら悪態をつく。
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