背理

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ベッドの上で何度か寝返りをうつ。 明日は早く会場に行かなきゃいけない。 瞼を強く瞑れば瞑る程、先刻の賢治を思い出す。 睡魔は訪れず、五感が研ぎ澄まされる。 浴槽に湯を張る音がする。 互いのプライベートを確保出来る間取りが、此処を決めた理由の一つだった。 だがいざ暮らしてみると、部屋数に重点をおきコンパクトにまとめられた水回りのせいで、より相手の気配を感じてしまう。 賢治の裸体が、ふと頭の中に浮かぶ。 最後に肌を重ねたのは、いつだったか…悩ましい情動が襲ってくる。 今日は彬も賢治も、やたら雄みが強かった。 そう思うのは私が欲求不満のせい? メンタルが弱ってる? そう言えば賢治と出会った頃の学生時代も、鬱々としていた。 原因は遊佐彬。 彼は、退官間近だった父の教え子。父が目をかけているのは、やたら家で私に『これ、どう思う?』と尋ねてくるので分かった。採点中の作品や課題は、同学年とは思えない程クオリティが高く、確実に彼の世界があった。 努力では得られないセンスの存在を、初めて実感した。 大学は違えど同じ専科を学ぶ者として、私は在学中ずっと未だ見ぬ彼へ、嫉妬や羨望など様々な感情を抱いていた。 対抗心から院へ行き学びを深めるか、就職するか。 そういった悶々とした想いを最初に断ち切ってくれたのは、賢治だった。
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