背理

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彼が携わっている大型案件の話を聞いてた時、 『ビッグプロジェクトはキーパーソンだけじゃ回らないんだよ。コンセプトや予算を決める以外も、諸々細部まで取捨選択しなきゃならない。そういった事全てチームが手分けし、共有しながら実行していく。大事を成すには、キーパーソンを支える人達が必要なんだ』 彬への劣等感が嘘みたいに消えた。 一人の天才肌や、優秀な人間だけでは物事は進まない。それはどこの業界、職場でも同じなんだと思ったら、迷いから抜けた。 院はやめて、働く。 実践でしっかり学ぶ。 その為には、就活を見直そう。 賢治の会社、もし内定貰っても辞退する。 もっと現場寄りの中堅建設会社に応募しよう。 そう、心に決めた。 デートの時に言い出しにくかったが、思い切って伝えた。すると賢治は酷く驚き、大企業に勤めるメリットを熱弁し始めた。 私がしようとしてる事は青臭いことかもしれない。 だけど賢治の会社に入ったら、『三ツ橋啓三の娘』という看板に押し潰される。そう言うと彼は不意に押し黙った。 結局、私は我を通した。 賢治はそれが元で、徐々に会社での立場を悪くしていったと思う。彼が全く弱音を吐かなかったから、気付くのが遅れた。 私は卒業後一人暮らしを始め、二回更新した。 その間に完璧な彼氏像だけでなく、駄目な姿も見せてくれていたら…多分私達の関係は今と違っていただろう。
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