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彬は腰を曲げたまま、顔だけ上げて
「わぁ、怖い顔」
上目遣いに私を見る。
彼のトレードマークになっている丸眼鏡越し、その瞳に向かって
「藁科さんいなかったら、明日大変になるの分かってるでしょ!?」
私は目に力を込めて睨む。
「ええっ、既に悪者認定?…僕何もシテないのに」
心外だと口を尖らせ拗ねた表情に、腹立たしいより疲労感が募る。
今まで何度か藁科さんが彬にアプローチしてるのは目にしていた。
酒席に乗じた軽口だったり、
自分の恋愛話だったり。
彬を上司ではなく、異性として捉えていた様だった。
陽気で機転が利く藁科さんは、嫌いじゃない。
成人した男女だし雇用関係さえなければ、二人で恋愛を謳歌してくれて構わない。ただ彬には再三『あなたからは、手を出さないで』と忠告してきた。
ようやく若手建築家・遊佐彬として、周囲に認知され始めのだ。学生アルバイトに手を出したと、イロモノ扱いで騒がれたくない。
共同経営者である私は、炎上案件は未然に防がなければならない。
それに思い過ごしかもしれないが、時折彼女から純粋な慕情とも違う耳目を集めたがる者の欲を感じた。
しかし何もイベント前日…
彼女が来ても来なくても、大変になるのは想像がつく。
「はあ」
私は深いため息をひとつ落とした。
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