13人が本棚に入れています
本棚に追加
★
玄関のドアが開く音が夢うつつに聞こえ、シャワーの水音で覚醒した。
横たわったまま時計を見て、額に手を置く。マーケットの終値を確認した後、夕飯を頼まずうたた寝してしまった。
起き上がり、ベッドから足を下ろす。
腹は減っていない。
昔そらは「簡単なものだけど」と言って、手早く栄養バランスの良い食事を作ってくれた。彼女も仕事で疲れてただろうに、笑顔で台所に立っていた。宅配物には無い素朴なメニュー。
あれなら食いたい。
最近、彼女の帰宅が遅い。仕事で?それとも他の件?
どちらにせよ2人で食卓を囲んだ日々が遠い。
前屈みで考え込んでいると、髪が落ちてきてウザイ。立ち上がって、ヘアバンドとヘアゴムを捜索したが見当たらない。予備が洗面台の鏡裏スペースにあった筈。
随分前に水音は止まった。多分、彼女には会わないだろう。
彼女は今、惰性で俺との暮らしを続けている。
身も心も俺を欲しっていた頃の、あの表情をしばらく見てない。
思い起こすとやるせなく、わざと生活リズムをずらした。
なのに、
「…何やってんの」
最初のコメントを投稿しよう!