前提

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★ 玄関のドアが開く音が夢うつつに聞こえ、シャワーの水音で覚醒した。 横たわったまま時計を見て、額に手を置く。マーケットの終値を確認した後、夕飯を頼まずうたた寝してしまった。 起き上がり、ベッドから足を下ろす。 腹は減っていない。 昔そらは「簡単なものだけど」と言って、手早く栄養バランスの良い食事を作ってくれた。彼女も仕事で疲れてただろうに、笑顔で台所に立っていた。宅配物には無い素朴なメニュー。 あれなら食いたい。 最近、彼女の帰宅が遅い。仕事で?それとも他の件? どちらにせよ2人で食卓を囲んだ日々が遠い。 前屈みで考え込んでいると、髪が落ちてきてウザイ。立ち上がって、ヘアバンドとヘアゴムを捜索したが見当たらない。予備が洗面台の鏡裏スペースにあった筈。 随分前に水音は止まった。多分、彼女には会わないだろう。 彼女は今、惰性で俺との暮らしを続けている。 身も心も俺を欲しっていた頃の、あの表情をしばらく見てない。 思い起こすとやるせなく、わざと生活リズムをずらした。 なのに、 「…何やってんの」
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