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 やたらと心配するロナルドを振り切り、一時帰宅した。時間の止まった部屋の中、残留していた怒りが集まってくる。偽りを表示した画面を、拳で殴り黒くした。  まだ確証を得た訳じゃない。しかし、行き場を求める怒りは、早くもリックを標的へと変えてしまった。  このまま行けば――彼がそうだと確定すれば、きっと私は彼を許せなくなる。描き続けていた未来へと、否応なく導かれてしまう。  だからどうか、私の勘違いで。    本当に何も知らないのか、数時間後連絡が入った。指定した待ち合わせ場所にも、疑い一つ持たずやってくる。賑わいの枯渇した裏路地は、意外に明るかった。 「ウィル、これ」  合流して早々、袋が掲げられる。いつもより多い証拠品が、中には詰められていた。変色した赤が、錆のように点々と散っている。 「……リック、実は犯人が見つかった」 「えっ」   これは布石だ。推測が間違いであると、はっきりさせる為の一手である。この為に傷を抉るのは正直気分が悪い。しかし、否定できるなら喜べさえするだろう。 「アレックス・イルと言う人間を知ってるか?」 「その名前、さっきも呟いてましたね。もしかして、その男が犯人なんですか?」 「知らないんだな?」 「え? はい」 「じゃあ昨日一緒に居た人は?」 「昨日?」 「女性と歩いている所を見た、美しい人だ」 「あっ、そうだったんですか。あの人、実は僕の恋人なんで……あっ」  無邪気な笑顔が固まる。仮面のように、動きなく止まっている。エリックは察したのだろう。続きの台詞は読み上げられなかった。 「その恋人が今日亡くなっていた。アレックス・イル。その人の名前だ」 「……なるほどね」  ついには、仮面さえ剥がれた。ただ、代わりに浮かびあがったのも笑顔だった。邪心で構築された、不愉快すぎるものだったが。 「迂闊だったなぁ。だってウィルがあんなとこにいると思わないじゃないですか。体調不良って聞いてますし。それに今日遺体を見るとも思わないし。折角恋人って嘘も固めてたのになー」 「……ジェシカも殺したのか?」 「そこまで見抜いてるんですか? そうですよ。あんたの恋人、殺しました」  堂々とした告白に、全身が沸騰する。一瞬で怪物に乗っ取られ、次の瞬間には拳銃を握っていた。どの家にもあるような護身用だ。しかし、十分な殺傷能力はある。 「なんで殺した?」 「好きだからですよ。死の現場が。金にもなるしね」  本能的に発動したスキルが、発砲までの準備を一瞬で仕上げる。スコープ無しに頭を狙い、引き金を引いた。 「ニコル」  だが、送り出した弾は鎖骨に食い込む。崩れ落ちたエリックは、血を湧かしながら笑っていた。 「怒ると思うなぁ……」  予知能力でもあるのだろうか。咄嗟とは思えない弱みを突かれ、二発目を躊躇う。  殺すな。殺せ。殺したって意味はない。でも許せないんだろ。ニコルが悲しむぞ。ジェシーだって。でも、野放しにすれば、また悲劇が起きるんじゃないのか――天秤の傾きを、どうにか持ち直す。立ち上がれないエリックの頭へ、銃口を押し付けた。 「やめろウィル! 殺すな!」  後方から、ロナルドの声が聞こえた。恐らく、目視だけで状況を察したのだろう。だが、もう遅い。  距離を声から判断し、早くとも一分は必要になると推測する。 「誰もそんなこと望んでない! それに、お前と同じ人間を作ることになるぞ!」  追い討ちに、指先が躊躇った。だが、全て何度も考え抜いたことだ。その上で、私は。  引き金を引く。何度も。弾が費えるまで。
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