1/1
前へ
/13ページ
次へ

 エリックの件は、ロナルドにより自殺と設定された。結果的に私は、冷たい目一つ無い場所で、のうのうと生きている。  以前の住居を離れ、今はミドの町に戻った。魔物の住む川へは、五分あれば着く場所だ。  そんな場所にいながら縋らないのは、透明の枷が填まっているからである。事件後、ロナルドは私に言った。 「償う為にも生きろよ」と。  言葉の裏は容易に読めた。その上で態と表面通りに受け取った。  例え、どんなことがあろうとも。  遠い記憶と化していた、ノックの音が聞こえる。攻撃的な連打は興奮を暴走させていた。 「空いてるよ」  語尾が溶けると同時に、扉が内壁へ叩きつけられる。長方形の枠の中、現れたのはニコルだった。  背丈も大人並みになり、幼い面影一つない。しかし、私が彼女を見間違えることはない。  なぜなら、待っていたからだ。  逆光に消された表情に、あの日の微笑みがないことは容易に読み取れた。 「やっと見つけたわ……! ウィルが父さんを殺したなんて嘘よね!?」 「嘘じゃない、本当のことだ」 「なんで! なんでよ!」  微笑みを返答にする。ニコルは一気に距離を詰め、私の胸倉を掴んだ。 「許さない! 絶対許さない! 一生恨むわ!」  私を許さないでくれる誰かを。裁いてくれる誰かを。  自らの為だけに復讐した、悪人であるこの私を。    ごめんな。それから、ありがとう。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加