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 最悪だ。最悪の結末だ。  犯人はまだ、この町でのうのうと生きている。そう確信していた。この手で正体を暴き、殺してやると、それだけを見据えていたのに。    空しさを映した画面がぼやけている。あれから何日経っただろうか。体の渇きが酷くなっても、私は部屋から一歩も動けなかった。  硬直が始まった段階で、体調不良を会社に告げてはある。エリックは今頃、臨時の相棒と業務に勤しんでいるはずだ。嘘の理由を信じ、もしかしたら密かに袋を膨らませて。  椅子に腰を埋めたまま、思考だけが腹を満たす。未だに消えない復讐の炎が、糧となり生命を支えている。  なのに、対象は失われた。遣り切れない怒りの矛先が、暴走先を求める。  このままでは、私は。  驚くほど俊敏に体が持ち上がった。自宅から逃げだし、車のエンジンをかける。どうにか怒りを押さえ込み、侵されないよう自我を引き止めた。  怪物になりかけている。理性を失い、荒れ狂う存在に。それは嫌だ。    人の消えた町に突っ込み、目的地である橋に車体を擦りつける。サイドブレーキもかけず、車外に飛び出した。  小さすぎる橋の下――そこには、視界を埋めるほどの川が私を待っていた。餌を欲しがる魚のように全体を蠢かせている。腹の底は黒く、何も見えなかった。 「ジェシー、すまない。私は自分を保てない。人間ですらいられなくなる前に、私自身を殺させてくれ」  欄干に右足を掛け、左足に弾みを付ける。両足が細い棒に乗り、あともう一歩で体が軽くなる――と思いきや、重力は私を放さなかった。  寧ろ引っ張られ、橋の内側へ連れ戻される。背中から地面に叩きつけられ、再び動けなくなった。  太陽光を阻み、人影が私を覗き込んでいる。 「いやいや駄目でしょ……」  霞んではいたが、声でロナルドだと分かった。だが、未来しか見ていなかった所為で、現状を読むのに時間がかかる。 「なんでここにいるって顔してる?」  憶測を立てたロナルドの顔が、ゆっくりと降下してくる。距離が狭まり、やっとはっきり見えてきた。笑顔のオブラートすらない、本気の心配で満ちている。それと、小さな怒りも。 「君を見かけたからだよ。死にそうな顔で運転してたら追いかけたくもなるさ。とりあえず乗れ。話は車内で」  ロナルドは私の体を持ち上げ、移動の介助までしてきた。心が乗車を拒んだが、力をなくした体は従ってしまう。  そのまま押し込まれ、発進された。先程、頭がパンクしたのか、怒りは不自然に消えていた。    事情だけ淡々と説明し、無情に巻き戻る風景をただ見つめる。ふと見知らぬ町の中、見知った姿が際立った。  一瞬で通り過ぎたが、あれは間違いなくエリックだった。美しい印象の女性と、笑いあって歩いていた。  一件微笑ましい様子に、身を焼くほどの危機感が沸き立つ。だが、行動は愚か、体は発言一つ許さなかった。
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