自粛生活

2/4
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 実家の所用で、帰省することになった。  圭悟にアプリで報告する。 <毎日暑い~ 急用があって帰省するよ 今は遠出したくないけど> <道中、気をつけろよ 親孝行してこい> <そうだな 気遣いありがとう>    地元に帰ると、田舎の平凡な地方都市だけどやっぱり懐かしい気持ちになる。  このスーパーに来ると知り合いによく会うんだ。 「あっ」  僕は年配の女性と目があった。圭悟の母親だ。 「こんにちは」  ペコッと頭を下げる。  おばさんが眉一つ動かさず僕を見つめる。  マスク越しだから、僕かはっきりわからないのかもしれない。 「あの、上田聡です。お久しぶりです」 「聡君、ご無事で何より」 「はい」 「圭悟の大切な親友だわね」 「ええ。仲良くしてもらってます」 「聡君、実はね」 「はい」 「ちょっとあちらに行こうかしら」  おばさんは僕を店の隅に連れて行った。 「圭悟は…」  言いかけて、おばさんは押し黙った後、重い口を開いた。 「圭悟は…、亡くなったの」 「ええ!? 亡くなったって…、何があったんですか? 一週間前に遣り取りしたばかりですよ」 「それはありえません。亡くなったのは半年前ですから」  僕は焼香に呼ばれた。遺影の圭悟は笑っていた。  居間に移り、僕は冷たい麦茶をゴクゴクいただく。  おばさんは目頭をハンカチで押さえながら、話し始めた。 「緊急事態宣言が出ていた時に突然だったわ。圭悟がシン・ウイルスに感染して入院するも家族さえ面会できず、死に目に会えなかった。火葬場にも行けなかった。お(こつ)で家族の元に戻ってきたの」 「そんな…」 「最期まで、誰にも見送られずに亡くなって、お骨になるなんて、ほんとあの子が不(びん)で不憫で…。せめてものと、スマホを圭悟の手に持たせました」 「じゃあ、圭悟君が亡くなったことを誰も知らないんですか」 「ええ。職場の人以外は」 「僕はずっと圭悟君と遣り取りしてたんです」 「心残りがあるんだわ。ありがとう、聡君。圭悟も嬉しいでしょうね」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!