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実家の所用で、帰省することになった。
圭悟にアプリで報告する。
<毎日暑い~ 急用があって帰省するよ 今は遠出したくないけど>
<道中、気をつけろよ 親孝行してこい>
<そうだな 気遣いありがとう>
地元に帰ると、田舎の平凡な地方都市だけどやっぱり懐かしい気持ちになる。
このスーパーに来ると知り合いによく会うんだ。
「あっ」
僕は年配の女性と目があった。圭悟の母親だ。
「こんにちは」
ペコッと頭を下げる。
おばさんが眉一つ動かさず僕を見つめる。
マスク越しだから、僕かはっきりわからないのかもしれない。
「あの、上田聡です。お久しぶりです」
「聡君、ご無事で何より」
「はい」
「圭悟の大切な親友だわね」
「ええ。仲良くしてもらってます」
「聡君、実はね」
「はい」
「ちょっとあちらに行こうかしら」
おばさんは僕を店の隅に連れて行った。
「圭悟は…」
言いかけて、おばさんは押し黙った後、重い口を開いた。
「圭悟は…、亡くなったの」
「ええ!? 亡くなったって…、何があったんですか? 一週間前に遣り取りしたばかりですよ」
「それはありえません。亡くなったのは半年前ですから」
僕は焼香に呼ばれた。遺影の圭悟は笑っていた。
居間に移り、僕は冷たい麦茶をゴクゴクいただく。
おばさんは目頭をハンカチで押さえながら、話し始めた。
「緊急事態宣言が出ていた時に突然だったわ。圭悟がシン・ウイルスに感染して入院するも家族さえ面会できず、死に目に会えなかった。火葬場にも行けなかった。お骨で家族の元に戻ってきたの」
「そんな…」
「最期まで、誰にも見送られずに亡くなって、お骨になるなんて、ほんとあの子が不憫で不憫で…。せめてものと、スマホを圭悟の手に持たせました」
「じゃあ、圭悟君が亡くなったことを誰も知らないんですか」
「ええ。職場の人以外は」
「僕はずっと圭悟君と遣り取りしてたんです」
「心残りがあるんだわ。ありがとう、聡君。圭悟も嬉しいでしょうね」
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