39人が本棚に入れています
本棚に追加
勉一は、ありふれた風体の男だったが、苦労知らずで明るく、子どものように素直で優しい性格だった。前向きなことばかりを述べ、行動力も相応にある。一面だけを見れば人たらしな感じのする男であり、萩原家の娘・倫子に対しても誠実に接していた。
政略結婚というほどの重たいものではなかったが、倫子も倫子なりに島崎家の野望に気づいていた。自分が勉一と結婚する意味も、十二分に理解していた。
それでも、ふにゃっと幼子のように顔を崩して笑う勉一に心を許し、彼の近くに別の女の影がないことをしっかりと観察した上で、真面目に付き合い、きちんと順序を踏んで、プロポーズを受諾、やがて婚姻するに至った。
萩原学は、町長を二期八年務めた。「長期政権はよろしくない」と度々言っていたため、就任当初から八年を限度と決めていたらしかった。「次世代の活躍に期待する」の言葉で勇退し、そうしてこの町は、新たな町長を選出することとなった。
だが、やはりこの町はしがらみで成り立っている。
いかに有能な候補者が現れても、島崎家と萩原家が姻戚となれば、もはや勉一に票を入れることが義務のようになってしまうものだ。このネットワークは非常に強固で、生半可な活動では太刀打ちできない。町のことを真剣に考える者を除けば、投票用紙に「島崎勉一」と書いてしまうことを躊躇う者はいなかった。むしろ勉一は、ろくな選挙活動をしなくとも受かっただろう。そんな環境下ながら、勉一はけっこう頑張った。まだ三十代という若さがそうさせたのかも知れない。無論、妻である倫子も頑張った。結果はダントツの完全勝利。もっとも、こうなる結末は既定路線でしかなかったのだが。
最初のコメントを投稿しよう!