39人が本棚に入れています
本棚に追加
「やあ、ボクの名前は『ゆる・さない君』ニャ。ボクの名前を忘れたら許さないニャ」
声も女性のものだった。やや甲高くも聞こえるアニメ声だ。ライターは「おっ、可愛い声してますねえ」と浮かれて見せた。
「では町長、色々とポーズを取ってみましょうか。まずは並んだ写真から。あまり時間もありませんので、手短に二十枚ぐらい撮って帰ります。じゃあ一枚目。よろしくお願いします」
ライターは、以後の合図をカメラマンに任せ、スマートフォンでどこかと文字のやり取りを始めた。口調は好意的だが、全力で取材しようという気持ちは感じられない。それでもその感情は記事の文字に乗らないだろう。紹介してもらえるだけでありがたいことだと勉一は思い、カメラマンの指示通りに写真撮影をこなした。そうして双方の気持ちが乖離しながらも撮影を終えると、取材はあっけなく終了となった。
勉一は儀礼的に挨拶をしてから、ライターとカメラマンを車まで送った。そして役場を去り行くその車を見送った後、うっすら滲む汗を指で拭き取った。
そこで先ほど一緒にいた賀川が、そっと白いハンカチを差し出してきた。それには可愛らしいクローバーが刺繍されている。
「よろしかったらお使いください。お疲れさまでした」
最初のコメントを投稿しよう!