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シャーロットの城
「はぁ、はぁ、はぁ……良かった……着いた」
日が暮れかかる頃、少年はやっとシャーロット城の城門まで辿り着いた。門はすでに閉じられており、2人の屈強な門番が睨みを利かせていた。
途中、気味の悪いベトベトしたアメーバ状の生き物を踏みつけてしまい、道を見失いながら夢中で走ってきた。
その生き物を踏みつけた右足の靴はいつの間にか溶けて無くなっていた。
「思ったより大変だったけど………無事に着いたぞ……」
堅牢な城門を見上げた少年は安堵のため息をついた
「早くギルドまで行かなくちゃ……でも、その前に……お腹すいたな」
少年は疲れと空腹で動けなくなりそうだった。
その様子を門番の2人が、ジッと見ている。先程からこの見慣れない少年が気になっているようだ。
2人は何やら相談するとそのうちの1人が少年のそばへ近づいてきた。
「おい、そこの怪しいやつ! ここグラスランド王国の都シャーロット城に何のようだ?」
全身ヨロイに身を包んだ門番は、右手の槍をドンと地面に突き立てた。
「僕は、あ、怪しい者ではありません、冒険者ギルドまで用があるんです」
シャツの背中は破れ、靴も片足しかはいていない少年はとても冒険者には見えなかった。
「冒険者ギルドに用があるだと? お前冒険者なのか?」
「え? あ、はい! そうです」
城の中に入りたい少年はとっさに答えた。
「嘘をつくな! ちょっと調べさせてもらうぞ」
2人の門番は、少年の体を調べ始めた。するとポケットの中の淡く輝く魔石に気が付いた。
「これは、魔石じゃないか……しかも、こんなに大きいぞ」
魔石を見た2人の門番は急に態度を変えた。
「失礼した。冒険者とは知らずに。さぁお通り下さい」
「え、いいんですか?」
門番はカンヌキを外すと、大きな鉄の門を押し開いていく。鉄の門は錆びた音を響かせながら内側に開いた。
「あ、ありがとうございます」
少年は門番の2人に引きつった笑顔を送ると、城門をくぐった。
城内に入ると大きな通りが街の中央の広場まで続いており、その先にシャーロット城の天守が微かに見えていた。
街のメインストリートであるこの通りは、 人気の飲食店や商店が立ち並び多くの人々で賑わっていた。
想像以上の店や人の多さに少年は街中をウロウロと彷徨う事になった。
「まるでお祭りみたいだな……どこに行けばいいんだろう?」
少年は意を決して、杖を突いて歩いていた老人に道を尋ねる事にした。
「すいませんお爺さん、冒険者ギルドってどこにあるんですか?」
老人は、少年のボロボロの身なりに少し面食らったようだったが親切に教えてくれた。
「この先を行くと、黄色い看板の大きな酒場がある。そこの2階じゃよ」
「ありがとう。おじいさん」
「君は、冒険者かね?」
「いえ、まだ。これから話を聞くところなんです」
「そうかい」
変わった身なりの少年を心配したおじいさんは、一言付け加えた。
「そこは荒くれ者が多いから気をつけなさい。暴力沙汰に巻き込まれないようにすることじゃ」
「は、はぁ。気を付けます」
キョロキョロと周りを見回しながら通りを歩くと、ひと際目立つ黄色い看板の酒場があった。おじいさんのいう通りその2階が冒険者ギルドになっているようだ。
その看板には大きくこう書かれていた。
『ジャック・ラビット・スリムの酒場』
木製のドアの隙間からランプの明かりが外に漏れている。中からは、大勢の客が騒いでいる様子がうかがえる。
吟遊詩人が歌っている声、客の笑い声、、拍手の音。グラスの割れる音。注文をとるウェイターの声。 怒鳴りあうの客同士の喧嘩の声。
「……僕なんかが入っても大丈夫かな?」
酒場の前に辿り着いた少年は、少し怖くなりその前を何度も行き来した。おじいさんの言葉が脳裏に浮かぶ。
「でも……入らないと、何も始まらない。」
少年は思い切ってドアを開けた。
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