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ルキアとエリナ
窓の外から刺してくる眩しい陽光に少年は目を覚ました。
「うん……ここは?」
少年は昨日のことを思い出し、自分がギルドの隣の宿にいる事を理解した。
昨日は疲れのあまりベットに辿り着くと何も考えられづ、すぐに眠りに落ちたようだ。
「そうだ、冒険者ギルドって所に行かなきゃ」
その時、少年はいつの間にか服が着替えさせられていることに気が付いた。どうやら宿屋の女将さんが少年のボロボロの服をみかねて着替えさせてくれていたようだ。
「マズイ……爆睡してたから覚えてないな……」
酒場のジャックが宿の女将に彼が”プレイヤー”で魔石も持っている事を説明してくれていたため、ツケで泊まることが出来た。
部屋から顔を出すと、ちょうど宿の女将が通りかかった。
「あら、もう起きたのかい。昨日は死んだように眠ってたわね」
少し太めの女将は笑顔で少年を見つめた。
「あ、この服……」
「良かったピッタリじゃない。……わたしの子供の服なんだけどね、もう着ないからもらっていきなさい」
女将は自分の子供のように少年の頭を撫でた。
「ハハ……助かります」
それはこの街の平民が着るごくごく普通のブリオーと呼ばれるゆったりと布の服だった。
それに合わせて靴も用意されていたが靴のほうはブカブカで歩きにくかった。しかし裸足だった少年は喜んで履くことにした。
「私はメリルよ何か困ったことがあったら私や酒場のジャックに遠慮なく相談しなさい。あの人強面だけど面倒見はいい人だから」
「ありがとうございます。すぐに魔石をお金に換えて、宿代もお支払いしますので」
「急がなくていいよ、今からギルドに行くのかい?」
「はい!」
「あんたがどんな冒険者になるか楽しみだよ!」
ジャックや宿屋の女将は彼のよう”プレイヤー”と呼ばれる記憶をなくしてやってくる者達を何人も見てきたようだった。
少年は改めて女将に礼を言うと宿を出て隣にある冒険者ギルドを訪ねた。
冒険者ギルドとは、冒険者を管理する組合みたいなものである。
例えば冒険者として登録したり、パーティの仲間を見つけたり、クエストの依頼をするなどが主な仕事である。
ちなみに魔物を倒して出てくる魔石をお金にかえる交換所も、このギルドの別の部屋にある。
この世界に存在する魔物を倒して生活している冒険者にとっては、ギルドはなくてはならないものだった。
酒場の2階にある冒険者ギルドは、まだ早い時間とあってさほど人は居なかった。少年の前には、1人腕を組んだ剣士風の男が目を閉じて座っていた。
色々聞きたいこともあり話しかけようかと思ったが、ガラの悪い男たちに絡まれた酒場でのこともあり止めておいた。
その男の次に並んで順番を待っていると、少年の後ろに同じ年頃の少女が並んだ。
その少女はしばらく少年の様子をうかがっていたが、意を決したように少年に話しかけた。
「あ、あなたもここに来るの初めて?」
「え? なんで分かったの」
「……武器とか何も持ってないから」
「あぁ…そっか。うん僕もここに来たのは初めてなんだ」
「良かった……私もはじめてで怖かったんだ。」
「僕はこの場所だけじゃない、この国に来たのも初めてなんだ」
「え? じゃ私と一緒だ」
「じゃあ君も、何も覚えていないのかい?」
「ええ。自分の名前すら分からないの」
少女は自分と同じ境遇の子を見つけて少しホッとした様子だった。それは少年も同じだった。
「僕たち……理由は分からないけど、魔物のいるこの世界に来てしまったみたいだ」
「夢であってほしいけど……違うみたい」
「僕の事をこの国の人が”プレイヤー”って呼んでた。なんだろう?”プレイヤー”って」
「わたしにも分からない」
「わたしは昨日、森の中で目が覚めて運よく近くの村人に助けられたの。そしたら、シャーロットの街に行けば何か分かると言われてここまでやって来たの」
「そうだったんだ。僕は草原のど真ん中で目覚めてさ。いきなり魔物に襲われたりだいぶ苦労したけど色々助けられてここに辿り着いた」
「そう、大変だったわね」
「よろしく。僕は……そうだ名前も分からないんだ」
「ふふ……私も。取り敢えずなんて呼んだらいい?」
「ル、ルキアって呼んでくれ」
「ルキアね。分かった。どうしてルキアなの?」
「分からないけど。そんな気がしたんだ」
「私はエリナ。多分エリナだと思う。間違いない」
「わかったよ。じゃあエリナよろしく」
二人がそんな会話をしていると、先程部屋に入った剣士風の男が中から出てきた。今度はルキアが部屋に入る番だった。
「じゃ、僕、行ってくるよ。エリナ」
「うん」 エリナは少し不安げな表情で見送った。
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