8人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺の車、こっちだ。このまま直行するぞ」
言われるがままに篠崎の車の後部座席に乗り込む。
もともと大きくはない車、ベースを持っていることもあって一層狭いようだった。
黙ったまま動き出す車。
学校を出て、大通りを走って行く。
後方を写すミラーにうつった恭弥は、固く口を結びながら自分自身を抱きしめる姿を写す。
そんな恭弥へ、篠崎が恭弥を連れ出した理由を話し始めた。
「昼過ぎだ。おそらく、歩いて出かけるところだったんだろう。後ろから来たワゴン車と接触。そのまま救急車で運ばれた」
淡々と話す篠崎。
「本人は大丈夫って言っていたらしいが、念には念をってことだ」
外は太陽が輝いていて暑い。朝から日の当たるところに停めてあったので、車内もまだ暑い。
しかし、恭弥の背中には暑さではない理由で汗が流れる。
「悪いな、俺も詳しくは聞けてないんだ。だからわからないことも多い。だが、お前の過去を知ったからこそ、早く言うべきだと思ってな」
信号で車が止まり、篠崎が体をひねって後部座席の恭弥を見る。
「それと……申し訳なかった。つい余計なことをあいつらの前で話して」
頭を下げ、恭弥に謝罪をする。今までに見た事のない顔で。
そのまなざしに、虚ろな目を外へ向けたままの恭弥がやっと声を出した。
「別に、もう、いいです」
落ち着いた声だった。だが、これ以上の会話を拒むような声でもあった。
「全部、俺のせいだから……」
ぼそっと呟いた声は篠崎の耳にも入る。
だか篠崎は黙ったままゆっくりと前を向きなおし、ハンドルを強く握ると、青に変わった信号を確認して車を走らせるのだった。
次に車が止まったのは、大きな白い建物――病院の駐車場だった。
吸い込まれるように院内へと向かう患者やその家族。その人達から恭弥は目を逸らす。
(来たくなかった、病院なんて……)
恭弥が最後に病院へ向かったのは、父が事故に遭い、危険だと聞かされたときだった。
最初のコメントを投稿しよう!