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そして再びカツカツと鳴るチョークの音。耳を塞ぎたくなるその音に、頭を抱えてふさぎ込む。
「なんとベートーヴェンは、どんどん耳が聞こえなくなってしまっていた! 聞こえない音楽家なんて、致命的。そんな状態で音楽を続けるなんて無理。できっこない、って思うだろ? な?」
同意を求めたのもつかの間、今度は生徒たちを見ながら真面目な顔で話し始める。
「音楽家としては致命的な障害。音が聞こえない人生。それが辛くて苦しくて、絶望して、遺書まで書いた。でも、その遺書は使われることはなかった。なぜなら! ベートーヴェンは、一人じゃなくて、多くの人に支えられたから。だから音楽家として素晴らしい曲を作ったってわけ……おっと、もうこんな時間だな。これで今日の授業は終わりにするぞー」
時計を見た途端、ちょうど授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
この授業を終えれば、帰ることができる。やっと学校からも頭痛からも解放されるのだと思った。
でも、その思いはすぐに打ち砕かれる。
「荷物置いたら体育館に行けよー? 今日はこのあと全校集会だからなー」
忘れていた。
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