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教室内の明るい声に、鋼太郎の呟きは消えていく。
一方で恭弥は、ここ最近鋼太郎と共に過ごすことが多かった時間を、今日は以前と同じように、1人でいられる場所へ逃げ込んだ。
「野崎くん、久しぶりね……ってまあ。酷い隈ができてるわよ? 体調よくないのね。ベッドなら空いているわ。使って大丈夫よ」
昼食をとることなく、まっすぐ保健室に行けば養護教諭に迎え入れられた。
久しく利用していなかった窓際のベッドへ行けば、心配そうな顔をする養護教諭にカーテンを閉められる。やっと体を休められると、ベッドに体を埋もれさせフカフカの毛布でくるまる。
枕元にはスマートフォンを置き、制服がしわくちゃになるのも気にせず、縮こまった。
午前の授業は苦痛だった。
心が疲弊して、体力も削られた状態で、今後の楽しみもなく耳から入る音に集中しなければならない。しかも後ろの席には鋼太郎がいる。
人の目が気になる。
今後が不安になる。
一瞬たりとも気が抜けない。
(帰りてぇ……午後どうしよう……)
昼休みが明ければやってくる授業。幸いにも大嫌いな体育ではない。しかし、出席日数が危うい科目である英語である。
恭弥は昼休み中ずっと悩み抜いて、午後一の授業である英語を受け、その時の状態を見て帰ろうと決めた。
食欲もなく、授業開始時刻ギリギリに教室へ戻った。
結局保健室で一睡もしていないので、体調は変わりなく悪い。ただ、出席日数のためだけに教室に留まる。
「大丈夫か?」
席につこうとしたとき、体を前のめりにして鋼太郎が声をかける。だが、恭弥から返って来るのは「ああ」という弱く短い言葉だけ。明らかに元気のない姿。恭弥のことを顔に心情が出やすいと言っただけあって、状態をくみ取っていた。
「野ざ――」
「はーい、席に着いてー。授業、始めますよー」
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