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紙に書かれていたのは、恭弥の家族が事故に遭い、病院へ運ばれたという内容だった。それを読むと顔が一気に青ざめた恭弥は、信じたくない内容に何度も紙と教師を交互に見ている。
それを後ろの席に座る鋼太郎は、明らかに怯えている恭弥を見て目を見開いた。その理由は何だろうと、手に持っていた紙を覗きこむ。
角度のせいで一部見えない箇所もあったが、鋼太郎が読めた単語は『ご家族』、『事故』、『病院』。それだけをつなぎ合わせれば、あらかた想像がつく。
恭弥は震えながらも、小さな声で「違う」、「そんな訳ない」と自分自身に何度も言い聞かせる。
「急いだ方がいいだろう。全部荷物は持って、すぐに行きなさい」
2度目の教師の言葉で、恭弥は口を固く結ぶと、渡された紙をくしゃっと握りポケットに入れる。そして顔をゆがめながら机の上に広げていた勉強道具をバッグへしまい、窓へと立てかけていたベースを持って立ち上がった。
「おい、野崎!」
鋼太郎が立ち上がって恭弥の手首を掴んで呼び止める。
恭弥は振り向かなかったが、その足をいったん止めた。
「俺、いつでも話聞くから。だから……」
戻ってこい、とそう言おうとしたが最後まで言い遂げることなく、手を振り払われてしまう。
恭弥はそのまま勢いよく教室の扉へ向かうと、普段と違って乱雑に肩にかけてしまったベースのヘッドが思いっきり扉にぶつかる。ドアが外れるほど大きい音であったため、クラス中がビクンと反応したが、恭弥は止まることなく教室から出て行ってしまった。
「野崎……」
なりふり構わず去っていく恭弥を見送るしかできなかった。
クラスは何があったのかとどんどんざわめきが大きくなり、彼らの勝手な想像が言葉になって膨らんでいく。
『授業サボりすぎて退学処分なんじゃね?』
『いやいや、犯罪とかかもよ。ほら、何も言わないし不気味だし』
『話したことねぇけど、何考えてるかわからねぇ奴だしな』
『きっと、御堂くんを盗った罰よ』
『神様に嫌われているんじゃない? 前世でやらかしたとか』
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