8人が本棚に入れています
本棚に追加
だったら傷付かぬように守ろうことに呈した。
だが今、先ほどの表情。死にそうな顔で出ていった恭弥。
つい先日起きた揉め事で気を落としてることを心配していた上に、家族が事故に遭ったとの連絡。
いくら動揺しているとはいえ、顔を見ることも反応することもなかった恭弥。
鋼太郎は何一つ、恭弥を守ることは出来ていなかったことに悔しさを覚える。
そして今、ありもしないことを噂されている。
鋼太郎は恭弥が苦しむ理由を知っているが、それをここでクラス全員に言うわけにもいかない。
そうなれば、本人がまた、苦しむかもしれないから。
「適当なことを言ってんじゃねぇよ……」
恭弥のことを何も知らない、何も知ろうともしないクラスメイトたちに苛立ちが募る。
だけど、強く言い返すこともできない。
また、自分が何かを言ったところで、クラスの空気が変わるはずはないと諦めもある。
何も出来ない自分へ対する苛立ちからチッ、と舌打ちをし、目を窓の外へ向ければ、恭弥がよく見ていた真っ青な空が広がっていた。
「片淵。席に着け。ほらほら、全員静かに。授業再開するぞー」
教師がパンと手を叩き、授業を仕切りなおす。
鋼太郎は悔しそうな顔をしながら座った。他の生徒たちも「えー」と文句を言いながら、前を向きなおし、しぶしぶ授業を受けるのだった。
☆
教室を出た恭弥は、廊下で篠崎と会った。
いつものへらへらとした顔ではなく、眉間に皺を寄せた篠崎に。
「送っていく。自転車より、そっちの方が早いし。詳しい話は車の中でしよう」
「……は、い……」
篠崎は急ぎ足で階段を下りていく。恭弥の足取りは重かったが、胸をぐっと抑えながら昇降口へと向かった。
(やっぱり、俺のせいで……俺が音楽を。こんなことしてるから、だからっ)
頭の中で今朝の夢がよみがえる。
いつも背負って登下校し、練習では肩にかけて慣れているはずのベースが何倍にも重く感じた。
教職員と生徒が出入りする場所が違う。
恭弥の足が遅かったこともあって、先に篠崎が外へでて生徒用昇降口で待っていた。
最初のコメントを投稿しよう!