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まだ中学生だった恭弥は、今回のように授業中呼び出され、祖父母と共に急いで病院へ向かった。事故は近所ではなかったため、移動に時間がかかった。
まだその頃は聞いた情報を素直に受け入れることができておらず、ただついて行くだけ。
見たことがないほど血相を変えた祖父。
小刻みに震えながらも恭弥の手を握っていた祖母。
2人とともに病室に行けば、見るからに痛々しい傷をいくつも作り、様々な機械につながれていた父がベッドに横たわっていた。
傍らにはともに事故に巻きこまれたのか、柊木が大きな傷を顔に負い、包帯を赤く染めながら何度も「恵太!」と叫ぶ。
その日の朝には、恭弥が作った曲をあとで聞いてほしいと渡し、笑っていた。
だから、恭弥はいつ感想が聞けるかと楽しみにしていた。
が、今はそれと全然違う姿。生き生きとして、ベースを弾いていた姿はもうそこにはない。
ただただ刻々と死の匂いが濃くなるのを、全身で感じ取った。
その後、賢明な処置をされたものの、負った傷が深く、息絶える父を目の前で見送った。
そんな苦しい経験があるからこそ、病院は死に満ちた場所だと恐れて避けてきた。たとえ祖父が入院しているとしても。
「よし、着いた。帰りも家まで送るから、荷物はそのまま載せといていいぞ。部屋は……階だけ聞いているから、後でスタッフに聞けば大丈夫だろう。とりあえず入口はこっちだ」
車を降り、篠崎の先導で院内へと入ろうとした。しかし、足がすくみ、息が荒くなる。胸に手を当てても、呼吸が戻ることはない。
言葉にせずとも、心境を察し、見かねた篠崎が、恭弥の肩を抱きながらゆっくりと一緒に歩いた。
院内に入れば、独特に匂いが満ちていた。
外来受付カウンターを横切り、奥の方にあるエレベーターに乗り込む。
2人以外は誰も乗り込んでくることもなかったが、2つ上の階で扉が開くまで会話はない。ずっと恭弥は過去の記憶が頭をよぎり、話ができるほどの余裕がなかった。
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