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ものの十数秒で扉が開くと目の前にはナースステーションがあった。医療スタッフが慌ただしくしている中、座っている事務らしき人に篠崎は少し話すと、すぐに「こっちだって」と先導して通路を歩く。
ナースステーションから2つ目の病室の前で篠崎は立ち止まる。大部屋のようで、扉の横にある名札には、知らない名前とともに確かに恭弥の祖母の名前があった。
それを確認してから篠崎が控えめなノックをすると、中から「どうぞ」という声が返って来る。
「失礼しまーす……」
病室の扉は篠崎によって開けられたが、その背中に隠れていた恭弥が先に部屋に入るよう促される。入りたくないと拒むように顔をしかめたものの、「大丈夫だから」と篠崎に背中をそっと押されて病室に入った。
鼻をつく消毒液の匂い。そして目の前のベッドで起きていたのは、まぎれもない恭弥の祖母だった。
その姿は、いつもとは違う。頭には包帯を巻き、腕からは点滴の管がつながれている。
「ばあ、ちゃんっ……」
やっとの思いで絞り出した声で呼べば、ニコリとほほ笑む。
祖母は篠崎とも一度目を合わせて軽く頭を下げると、篠崎は病室に入ることなくどこかへ向かって行った。
恭弥は祖母が生きているのを確認できたことで、喉がひりひりし、目を熱くしながらベッドサイドに駆け寄る。
「あらら。ごめんなさいねぇ、心配かけて」
「ほんとだよ……俺、ばあちゃんが死ぬんじゃないかって……」
言葉に詰まりながらも、祖母の手を握る。その手からは確かにぬくもりがあることで、恭弥は力が抜け床にへなっと座り込んだ。
その頭を祖母が空いた反対の手でなでる。
「ちょっとくらくらしちゃってねぇ。ほんの少しだけよ、車にぶつかったのは。運転手さんも、狭い道だからゆっくり走っていたもの。大したことないって言ったのに、お相手の方が救急車呼んじゃって」
そう話す声は、恭弥が想像していたよりも元気だった。
それに話の内容やケガの状態、繋がれている機械の数からも、父のときと違い軽いことがわかる。ひとまずは安心し、祖母の声を聞き続けた。
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