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しばらくしてから、病室の扉を叩く音がした。
祖母がどうぞと言えば、扉が開き入って来る祖父と篠崎の姿。入院着を着ているもののまっすぐ立っており、点滴すらもしていない祖父を見て、恭弥は目を細める。
「お前が入院してんじゃ、たまったもんじゃねぇよ」
「あらあら。そうよねぇ。おじいさんと一緒のところに入院するなんて、まさかよねぇ」
「まったくだ」
そう言いながらどすどすとベッドに近づき、一番奥にあったパイプ椅子にドスンと座った。
「で、怪我の具合は?」
「今日明日で検査して、異常がなければ明後日に退院みたい。ごめんなさいね、おじいさんの入院日数も少し伸びることになっちゃって」
祖母の手を握りながら、2人の会話を聞く。どうやら祖父母の退院は同日の予定になったようだ。
頭の中で詳しい日付を数えると、退院日は交流会の翌日だった。
「ごめんね、恭弥。あなたの演奏を見るの……楽しみにしていたんだけどねぇ。入院することになっちゃって。ベースを弾く交流会、土曜日だものね」
「なんで知って……」
恭弥がベースを再び弾き始めたことを知っていても、ステージに立つことは伝えていない。ましてや日付も伝えていない。なのになぜ、祖母の口から交流会や土曜日という単語が出たのか。
その疑問を解いたのは、近くにあった祖母の荷物の中から祖父が1枚の紙を取り出すことで理解した。
「じいちゃん、それって……」
「ああ。ばあさんから聞いてたやつだな」
祖父が手に取ったのは、恭弥がくしゃくしゃにしたまま自宅に放置していた交流会のスケジュールが書かれた用紙だった。
すっかりどこかへ無くしてしまったと思い込んでいたため、驚いて恭弥は目を白黒させる。
「恭弥の部屋で見つけたのよ。おじいさんと一緒に行きましょうって言っていたのだけれども……残念ね。私達はここから応援しているわ」
心の底から残念そうに言う祖母は、潤んだ目の恭弥の頭を再びなでた。
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