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(さっきの人、ドラムの譜面見てたな……)
ほんの一瞬だったが確認できた姿。あの鋭い目でジッと見つめていた男子の手元に、ドラムの譜面があったことを。
音楽をやっているのか、と複雑な思いを抱えながら、恭弥は学校を後にした。
☆
「ただいまー……って今日もいない、か」
痛み止めを買って帰れば、家は真っ暗だった。
鍵を開けて入ると、シンとした空気が恭弥を迎える。
もう何度も経験した暗闇に、肩を少し落とす。
リビングに向かい、電気をつければ、誰もいなかった理由が明らかになる。
『恭弥へ おじいちゃんのところに今日も泊まります。夜は電子レンジに作っておいたご飯があるから、チンして食べてね おばあちゃんより』
テーブルに置かれた一枚の紙。一緒に暮らす祖母からのメッセージだ。
携帯電話を持たない祖母。入院した祖父のために、毎日病院に通っていたが、ここしばらくは病院に寝泊まりしている。日中に家に帰ってきて家事炊事を行っているようだが、その間恭弥は学校にいるため、顔を合わせていない。
両親はすでにおらず、祖父母が唯一の家族。その家族と会えていないことが、恭弥の心に影を作る。
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