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にぎやかな朝の教室。しかし、恭弥は挨拶どころか会話をする相手などいない。もちろん自分から話しかけることもない。
(音が煩い……帰りたい……)
声が混じり、ノイズのようにしか聞こえない。それに囲まれて気分が悪くなる。だから帰りたい、その一心から、休み時間を全て一人で過ごして潰した。
昼休みになれば、恭弥は真っ先にビニール袋に入ったままの昼食とスマートフォンを片手に立ち上がる。
教室にも、学校にも恭弥と共にお昼ご飯を食べる人物などいないのだ。
『出た、ぼっち。キモい』
『そんなんだから友達いねぇんだよ』
『便所飯じゃね』
教室からありもしない声が聞こえ、誰とも目を合わせることなく教室を出た。
賑やかな廊下。他のクラスも授業を終えたところらしい。
それぞれが友人の元へ、学食へ、購買へと好きに動いている。
「飯だーっ! 先行くぜっ!」
目の前を風のように走っていく男子生徒がいた。
勢い余って、そのまま階段から転げ落ちている。
後から続いた友人たちに心配されると、へなへなと笑って返していた。
足早に恭弥が向かった先は特別棟の裏へと続く扉前。校舎の陰になって薄暗く、倉庫があるわけでも、自動販売機があるわけでもないので、人が寄りつかない。誰にも邪魔されることのない静かな場所。ここでいつも一人でお昼ご飯を食べていた。
今日はあいにくの天気。
ギリギリ濡れない扉の前に座り、地面に当たって弾ける雨粒を見ながら、コンビニで買ったパンをかじる。
するとその時。
「キョウ、ちゃん……?」
懐かしい声、懐かしい呼び方に心臓が強く音を立てる。
まさかとは思いながら、恐る恐る振り向いた。
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