Track1 最悪が連なる日

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 するとそこには、目を見開いて立ち止まる一つ年下の幼なじみ――作間(さくま)瑞樹(みずき)がいた。  父の死以降、意図的に瑞樹を避け、全く顔を合わせてこなかったが、その姿は昔と何一つ変わらない。  男子高校生にしては、背が低く、目が丸く大きい。柔らかく栗色の髪が一層と瑞樹を幼く見せる。 「瑞樹……」 「やっぱり! やっぱり、キョウちゃんだっ!」  飼い主を見つけた犬のように、パアッと明るくなったかと思うと、瑞樹は恭弥に向かって飛びかかる。  座ったままだったこともあって、身をかわすことはできず、その身を受け止めるしかなかった。 「僕ね! キョウちゃんを探してたの! ずっと、ずっと……! でも会えた! ねぇ、また一緒にバンド、やろう? 僕、キョウちゃんとやりたいんだ」  感動の再会らしく、声を上げる瑞樹に対し、恭弥はいたって冷静である。  瑞樹を自分からはがし、食べかけだったパンを袋に戻しながら、立ち上がった。  そして瑞樹に目を合わせることなく、淡々とした声を放つ。 「それは、無理だ……俺はもう、バンドも、音楽もやれない」 「え、なんで? あんなに好きだったじゃん。僕、あの時より上手くなったんだよ? 足手まといになんかならないからさ、ねぇ? ちょっとっ……」  訴えかける瑞樹の声を背に、言葉は何も返さなかった。  逃げるようにして向かったのは保健室。  昼休みのそこには、いつも他に利用者がいない。慣れた様子でノックをし、返事を聞くことなく中へ入った。 「あら、野崎くんじゃない。最近毎日来てるわね」 「ええ、まあ。奥、借りていいですか? 気持ち悪くて」 「ごめんなさいね、いつもの一番奥は先約がいるの。手前のベッドなら空いてるわ」 「……あざす」
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