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数枚の紙が視界を覆う。やりたくないけどやらねばならない紙切れ。そのうちやればいいやと、手に取って枕元に置く。
篠崎に背を向けたまま横になっており、いつになっても起きようとしない恭弥に、篠崎は「はぁ」と大きくため息をつくと腕を引っ張り無理やり体を引き起こした。
「何度も何度もさぼっていたら、卒業できねぇぞ? 早退多いから、出席日数ピンチだからな、野崎」
「……卒業なんかできなくてもいいです。別に。退学になるならそれでいいです」
再び寝ようとしたが、腕を掴まれたままなので適わない。下半身は自由でもあるため、ベッド上で体育座りの体勢をとって下を向く。表情はうかがい知れないが、声からして冗談ではなく真面目に言っているのだと悟り、篠崎は頭を抱えた。
「無理させないでくださいよ、先生。彼も色々あるんでしょうから……」
「でもねぇ、さすがに出席日数はねぇ。……って思って、いつも授業に出ない野崎を働かせようと思いまして。いい案を思いついたんです、聞きたいです? 聞きたいですよね?」
はいもいいえも聞かぬまま、篠崎は一人、楽しそうに両手を叩いた。それが恭弥に嫌な予感を抱かせる。
「俺、帰りま――」
「はいはい、逃がさないよー。たまには先生の話を聞きなさい」
「うっ……」
ベッドから出て逃げようとした恭弥の腕を篠崎が両手でがっしりと捕らえた。力もなく細い恭弥の体。いくらあがいても大の大人から逃げ出せることはなく、すぐにベッドに腰かけた。そこから再度逃げ出すことを防ぐように、両肩を篠崎に押さえつけられたことで、抵抗する気力は完全に失った。
「よしよし。それじゃあ話を続けようか。野崎は文化交流会知ってる?」
「……土曜にやるだるいやつ」
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