4話 校内放送と作詞

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ミモザの出した助け船に、アキはためらいなく飛び乗った。 「わーんっ。ミモザ様ぁぁぁ。手伝ってぇぇぇぇ!」 ぎゅっと抱きつかれて、一瞬驚いた顔をしたミモザが苦笑する。 「……もっと早く声かけたらよかったね。アキちゃんが張り切ってたから、こんな事言って嫌がられたらと思ったら。なかなか言い出せなくて……」 「えっ、そんな事考えてたの!? 私こそ一人で悩んでごめんっ。もっと早く助けてって言えばよかった……。私が依頼されたんだから、私がやらなきゃって思っちゃってた……」 アキの言葉に、ミモザはなるほどと納得する。 だから、今まで一人でやろうと頑張ってしまっていたのか。 また私はアキちゃんに無理をさせちゃってたのかな……。 後悔と反省の混ざった気持ちで、ミモザはアキの背を撫でる。 「ミモザごめんね。私は最初から一人じゃなかったのに。今日だってこんな風に一緒にいてくれてたのに。ミモザの気持ち気付かなくて……」 「えっ、そんな……。謝らないで、アキちゃん。私なんて頼り甲斐ないもん……仕方ないよ」 アキがガバッと体を離すと、ミモザの両肩をしっかり掴んだ。 「ミモザはめちゃくちゃ頼もしいよ!? 私が普段どれだけミモザに助けられてるのか分かってて言ってる!? こないだの撮影の時だってミモザがいなかったら私商品名も忘れてたし、ミモザがいなかったら映り込みにも気付かなかったし、学校でも忘れ物ばっかりの私をいつも助けてくれるし、私がテストで赤点取らずにいられるのも勉強みてくれるミモザのおかげだよっ!? 私が毎日楽しく過ごせてるのは、全部全部っっミモザのおかげなんだからねっっっ!?!?」 一気に捲し立てられたミモザが。ポカンとした顔から苦笑に変わる。 「ふふっ……。ごめんアキちゃん、よく分かったよ」 「まだまだあるよっ!?」 ガバッと立ち上がるアキをミモザが慌てて座らせる。 「どーどーアキちゃん。落ち着いて落ち着いて。もういいです。もうよくわかりました」 「本当に!? 本当の本当にっ!? 私はミモザがいないとダメなんだよっ!?」 感情が昂り過ぎたのかちょっぴり涙目のアキに縋り付くように訴えられて、ミモザは思わず緩んでしまいそうな頬に精一杯力を込めた。 「えー……。そんな風に言われたら……ダメだよ。嬉しくなっちゃうから」 「?」 「なんか、もっともっと私がいないとダメって思わせたくなっちゃうでしょ?」 「じゃあ私、ミモザと結婚するっ!」 「ええっ!? わ、私は嬉しいけど……。空さんはいいの?」 「空さん?」 不思議そうな顔で聞き返されて、ミモザはしまったと思う。 けれど、アキの返事はミモザの斜め上だった。 「空さんも一緒がいいなら、空さんと、あと大地さんも一緒に結婚する?」 思わず四人仲良く暮らす図を想像してしまったミモザがふき出す。 「あははっ、やだもぅ。アキちゃんは結婚をなんだと思ってるのよぅ」 「でも、皆で一緒にいられたら、きっと楽しいよねっ」 アキは本当にそんな未来を夢見ているのか、曇りのない笑顔は期待に輝いている。 ミモザは、その輝く笑顔に毒気を抜かれて見惚れてしまった。 ここまでの一週間でアキがノートにこれでもかと思いつく限りあげていた単語や考えを、ミモザは丸で囲ったり、囲ったグループや単語同士線を繋げたりしてわかりやすく整える。 アキはミモザの質問に答えていくだけで、歌詞のテーマが決まり、歌詞が次々出来上がってゆく。 その様は、まるで魔法のようだった。 「ほわー……。ミモザは本当に色んなことをよく知ってて凄いよ……」 「そうかな? 普通だよ」 ミモザが文字数を数えながら笑う。 アキは、博学で控えめでおごらないミモザを心底尊敬していた。 「やった! できたぁ!!」 「うん、数もばっちりだね♪」 「早速空さんに送るねっ」 そんなアキをミモザが止める。 「待ってアキちゃん。せっかくだから、できた歌詞でお披露目動画撮っちゃわない?」 「あっ、それいいねっ! じゃあ早速録音しようーっ」 スマホを取り出して、アキはミモザの準備完了を確認すると録音ボタンの上に指を構えた。 「いい? いくよー」 ミモザがコクリと頷く。 画像なしになってから、準備はもっと簡単になった。 「みなさんこんにちはー」 「こんにちは、A4U(エースフォーユー)です」 「今日は私達の新しい曲の歌詞が完成しましたーっ」 「アキちゃんが一週間悩み抜いて作り上げた大作ですっ」 「ミモザっ、いきなりハードル上げないでよーっ」 「ではアキちゃん、どうぞっ」 そこでアキが、ぴたりと動きを止める。 「……お披露目って、この歌詞読み上げるってこと……?」 「うん、もちろん」 「は、恥ずかしくない……?」 「私は組み立てただけだから恥ずかしく無いよぅ?」 「私は恥ずかしいよぅぅっっ」 アキは両手で顔を覆ってのけぞった。 「ふふふっ、アキちゃんにも恥ずかしいことがあったのねっ」 「誰だってこんなの公開処刑だよっっ」 「でもこれって、私達がこの後歌う歌詞でしょぅ? 慣れとかないと、ね?」 「あっ、ミモザっ。もしかして、わかってて誘った!?」 「ぇぇー? なんのことかなぁー?」 結局、歌詞は二人で声を揃えて読んだ。 「うーん、いい歌詞だよねーっ」 アキの満足そうな言葉にミモザが突っ込む。 「自分で言う!?」 「ミモザが助けてくれなかったら、絶対完成しなかったもん。本当にいい歌詞だなって思う。ミモザ、いつもありがとうね」 「やだもぅ。照れちゃうでしょぅ?」 「この歌詞は私だけでは絶対に出来なかったから、作詞の名前はA4Uにしようね」 「えっ、名前はアキちゃんでいいよ。私はアキちゃんの言葉を繋げたり並べ替えたりしただけだよ?」 「そこが一番大事でしょ」 「そんなことないよ、アキちゃんの用意した中身が一番大事だよぅ」 「中身だけあっても、あのままじゃ歌詞にはならなかったよ」 「でも……」 「じゃあ、どっちも大事ってことで。だから名前はA4Uね?」 アキに笑顔を向けられて、ミモザも渋々微笑んだ。 「……もう、アキちゃんには敵わないなぁ……」 そんな二人の歌詞お披露目音声に、書き上げたばかりの手書きの歌詞写真を添えて、にゃーちゅーぶに投稿する。 空のRINEに歌詞の写真とお披露目動画のURLを添えて送信し終える頃には、投稿した動画にLeonNoteからコメントがついていた。 『とても良い歌詞で感動した』と、号泣顔文字連打のコメントに、アキとミモザは達成感でいっぱいの気分で笑い合った。 「こっ……ここっ、これ1つだけ真顔なんだけど、どうしてっっっ」 「あはははっ、不意に我に返っちゃってる!?」 「でもその次からまた号泣連打だし」 「ここまでゴロンゴロンしてるのに、ここで立ってターン決めてるのおかしすぎるでしょっっ!?」 「もーっ、LeonNoteさんテンションがおかしいぃぃーーっ」 「毎回このテンションで大丈夫なの? LeonNoteさんーーっっ」 「これ打ってるとこ見てみたいっっ」 「意外と真顔で打ってたりして?」 「このテンションで打ってたらヤバいって!!」 「あはははははっ、おかしーーーっっ」
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