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翌朝、アキが坂の下で目にしたミモザは明らかに様子がおかしかった。
「ミ……じゃなくて愛花、おはよう」
「ひゃあっ、あ、アキちゃん……おはよぅ……」
「どうしたの?」
「……あ、朝からパソコン立ち上げたらね? トイッターに大地さんから、フォロー申請が来てたの……」
「申請?」
「うん、鍵をかけてる非公開アカウントだと、フォローするには申請を出して、許可をもらうっていう手順がいるのよ」
「……そーだっけ」
覚えてないという顔のアキを、ミモザがうかがうように見つめる。
「アキちゃん、私のトイッターアカウント空さんに教えた?」
「ううん。言ってないよ」
「じゃ、じゃあなんで……」
「あ。でもミモザが大地さんのファンだって話はしたよ」
「それは私も聞いたけど、それから何日も経ってるのに……」
「んー……、でも、ミモザはずっと大地さんのことフォローしてたんでしょ?」
「う、うん……。でも大地さんを片道フォローしてる人って三万人以上いるのよぅ?」
「じゃあたまたま大地さんがフォロバキャンペーンしてたとか?」
「そんな話してないし、フォロー数も私以外に増えてないから……」
「それは不思議だねぇ」
「不思議通り越して怖いよぅ……。だって私のアカウント鍵かかってるんだよ? 発言見えないはずだし、アイコンも画像もプロフも差し障りないことしか書いてないのに……」
「うーん……。じゃあ、空さんに何か知らないか聞いてみとくね」
ポケットからスマホを取り出して、文字を打つアキを横目に、ミモザは俯く。
「……なんでバレちゃったんだろぅ……」
不安でたまらない様子のミモザを見て、アキは文を増やした。
坂はそろそろ残り半分となってきて、アキの耳に会長の声が届いてくる。
「あー。今日も会長は良いお声だわ……」
「ふふ、私はアキちゃんのそのセリフを聞くと安心するよぅ」
「え、そう? なんで?」
「昨日のアキちゃんは、会長の声にもなかなか気付かなかったからね」
「そうだったっけ……?」
アキ達の前をゆく生徒が正門に差し掛かる。
「「「おはようございます」」」
挨拶をする生徒会役員たちの声は、そろそろミモザにも聞こえ始めた。
ミモザは昨日、アキが帰ってからもトイッターのDMでアキから新堂との話を聞き出していた。
そのせいだろうか。
今までは何やら遊んでそうで軽薄な印象を持っていた長髪の男が、今朝はなんとなく頼もしげに見えてしまうのは。
手をかけてあるのか、一つに括った長い髪には美しいほどの艶があり、朝日を浴びて天使の輪が浮かんでいる。
ふ。と顔を上げた新堂とミモザは目が合ってしまった。
不自然にならないようゆっくり目を逸らそうとした時、新堂がニッと人懐こく笑う。
「おはよーございまーす」
目を合わせて言われてしまい、正門までまだもう少し距離はあるものの、仕方なく答える。
「お、おはようございます……」
「明希ちゃーん、スマホ出してたら没収だよー? こっから校内だかんねー?」
ああ、彼が気にしていたのはアキの持っていたスマホだったのか。と、ミモザは新堂がこちらを見ていた理由がわかって少しだけホッとする。
アキはまだ文字を打っていたのか、門の前で立ち止まった。
「はーいっ。そーしんっと」
タップしたアキがポケットにスマホをしまう。
それを待っていたのか、生徒会の面々が挨拶を口にした。
「「おはようございます」」
「おはようございまーーすっ!」
アキの元気な挨拶の中で、新堂の隣に立つ生徒会長の胸ポケットで小さく振動音が鳴る。
それに気付いたのは耳の良いアキだった。
「あ。会長さん、メール来たみたいですよ?」
びくりと肩を揺らす会長。
「……ぁ、ありがとう……。でも校内では見ないから……。帰ったら見るよ」
「そうですよね、ごめんなさい」
「いや、気にしないで……」
アキは余計なことだったと気付いて照れ笑いを浮かべながら通り過ぎた。
振り返らずに靴箱を目指すアキの隣で、ミモザは後ろを振り返る。
会長は顔を隠すように俯いていたが、それを隣で覗き込んでいた新堂が不意に顔を上げた。
ミモザと目が合った新堂は、ニッと笑ってヒラヒラと手を振る。
ミモザの心臓が跳ねる。そんな気安く手を振られてもミモザに手を振り返す勇気はない。ミモザは逃げるように靴箱に駆け込んだ。
「ん? 愛花?」
「な……何……?」
「顔赤くない?」
「なんでもないっ」
答えてぶんぶんと首を振ったミモザは、視界の端で何かが銀色に光った気がした。
嫌な予感が、熱くなりつつあった頬を冷やす。
「アキちゃん、早く行こっ」
ミモザは真っ直ぐ教室に向かわずに、アキを連れて女子トイレに向かった。
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