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二人の姿に気づいた部長は不気味な笑いを漏らすと、シルバーフレームの眼鏡をくいと上げて部室の扉を開ける。
「クックック……来たか。わざわざご苦労だったな。入るがいい」
「お、お邪魔します」
律儀に頭を下げて入るアキの後ろにしがみつくようにしてミモザが入る。
二人を放送室内に入れた部長は、後ろ手で部屋の鍵をかけた。
カチャっという軽い音に、ミモザは寒気を感じた。
「……どうして、鍵を……?」
震える声で尋ねるミモザを部長が一瞥する。
「部外者に話を聞かれたくはなかろう?」
それはつまり、聞かれては困るような話をするということだろうか。
ミモザがごくりと息を呑む。
「僭越だが、録画録音機器を預からせてもらう」
「せんえつって何?」とアキが小声で尋ねれば、ミモザが「出過ぎた真似して悪いけどってこと」と答える。
「貴女がスマホを所持していることは承知済みだ」
「それって……」というアキにミモザが「アキちゃんがスマホを持ってるのは知ってるって」と補足する。
部長がアキの前に手を差し出す。アキは渋々そこにスマホを置いた。
「ふむ、やはり録音されていたか。良い心掛けだ」
部長は画面に表示されている録音停止ボタンを押す。
「褒められてる?」
「もぅアキちゃん話をややこしくしないでぇ」
「あ、部長さん、私スマホ壊されると困るんですが……。もう次買ってもらえない約束なので」
「前科があると? これ以上の接触はしない。ここへ配置しよう」
部長は出入り口近くの棚の上へ、アキの携帯を丁寧に置いた。
「貴女は?」
ミモザは部長の視線を受けて、肩を揺らす。
「わ、私は、スマホは持ってなくて……」
「不躾だが上着を拝借しても?」
「は、はい……」
ミモザが上着を脱いで、恐る恐る手渡す。
「その場で跳ねてくれ。うむ。重量を感じる所持品は皆無のようだ」
「……愛花、どゆこと?」とアキにひそひそ尋ねられて、ミモザが翻訳する「重いものは持ってなさそうって。えっとねアキちゃん、別に部長さんの言葉は古語とかじゃなくて丁寧だったり固いだけの現代語だからね?」
「そうなの!?」
狭い部屋でのやりとりは、小声だろうと筒抜けだ。
部長は元から寄せられていた眉をさらに寄せると謝罪する。
「……失敬した。我は緊張すると言葉が固くなる傾向があるのだ」
「えーっと、じゃあ、他に録音機器を持ってないかは、私も上着渡してぴょんぴょんしてみたらいいの?」
「左様ならば有難い」
素直に応じるアキの後ろで、ミモザが不安げに尋ねる。
「……本当に、これだけでいいんですか?」
「うむ。女性にみだりに触れるわけにはゆかん」
「……意外と紳士的……?」
「アキちゃん!?」
部長は二人の上着を確認すると、キチンと揃えて腕に抱える。
神経質そうな仕草だが、所作は美しい。
「挨拶が遅れた事を詫びよう。我は二年A組の鈴木麗音(すずきれおん)。麗音と呼んでいい。A4U(エースフォーユー)のファンだ」
至極丁寧に頭を下げられて、アキとミモザは顔を見合わせる。
顔を上げた部長がシルバーフレームの眼鏡を上げると、眼鏡は怪しく反射した。
「貴女らに我の歌姫となっていただきたい」
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